日別アーカイブ: 2018年1月15日

SS 例の物




「お客さん……あんたの熱意に負けたよ。
仕方ない300万で売るよ」
「あ、ありがとうでげす!
恩に着るでげす!」
「……お客さん、いいかげんその『でげす』やめない?
そのルックスでその語尾は似合ってないよ?」
「……これで素でげすよ?」
「まじかよ。
まぁいいや。はい、例のもの。
ほんとに大事にしてくれよ!
こんな格安で手に入るなんて、うち以外にないからね!
それと、今回だけだからね!」
「ぐふふ、肝に命じておくでげす!
ありがとうでげす!」
私はやっと手に入れた。
これを手に入れるために私はどんなに苦労したか。
300万なんて安いもんだ。
最低価格800万で売られている品物だからな。
これで当分は生きて行ける。

私は精一杯のお辞儀をし、店をでた。
出るときに見えた店員の顔の苦笑いがちらっと見えた。
私は店をでて精一杯、深呼吸をした。心を落ち着かせるためだ。でないと嬉しさのあまり、でかい声で叫んでしまいそうになる。
私は300万で購入したものを、改めて袋から取り出し見つめた。
ゴクリとツバを飲み込む。よくアニメとかで『ゴクリ』と擬音が使われるが、本当に緊張状態で飲み込んだツバは『ゴクリ』と音がすると初めて実感した。
「……ぐふ、ぐふふふふふ」
自然に笑いがこみ上げてくる。抑えようにも抑えられない。
私はそれほどのものを手に入れたのだ。

「あれ、吉田くん?」
「にょわーーーーー!」
不意に声がかかり、肩が、目が、肺が、心臓が同時に跳ねあがった。だが、驚いて例の物を落とすなんてそんなヘマはしない。そんなことをするのはアニメのヘタレ主人公か、ドジっ子か、ただの馬鹿だ。
「だ、大丈夫?」
「は、早川氏……お、驚かさないでほしいでげす」
「え……っとわたし、別に驚かしたつもりは……ごめんね」
「うむ、いいでげす。こいつが無事だったので……」
「ん? なーにそれ?」
早川氏はちょっと首を傾けて、私の手にもつ物に視線を移す。その仕草、とってもかわいいでげす。
「拙者……ついに、例のものを手に入れたでげす」
「れいのもの? まさか! ほんとに!
すごーーい! え! ほんとに!
いくら! ねーいくらで手に入れたの!」
早川氏は目玉が飛び出るくらい見開いている。
「聞きたいでげすか?
聞きたいでげすか?」
「うん! 聞きたいでげす!
ねー、もったいぶらないで教えてよー!
私と吉田くんの仲じゃない!」
確かに早川氏とは大学で出会ってからの付き合いになるので、もう8年くらいになる。まさか自分がこんなかわいい子とこうして友達になるなんて、高校のころの自分が見たら歓喜で裸で歌いだすだろう。だが……。
「さすがに、ただでは教えられないでげす。
苦労したでげすからなぁ」
「わかった!
じゃー3分間、私のおっぱい自由にする権利をあげる!
それならいいでしょ!」
「にょはああああ!」
な、何を言い出すんだこの子!
「にょ、な、なにをいって!」
「えー、だって吉田くん。わたしと会うときは1時間に平均89回私の胸……みてるよね?」
「にゅおおおおお!」
確かに彼女と会うとつい目が胸にいってしまう。
だが仕方ないのだ。彼女はなぜか毎回、胸が強調される服ばかり着てくる。春だろうが、夏だろうが、秋だろうが、冬だろうが、胸元をあけ谷間を作ってくる。
そしてときには肩掛けバックを斜めに紐をかけ、『パイスラ』というものをやって更に胸を強調してくるときもある。
これで見ないほうがおかしい。
というか数えられてしまうほど、私はわかりやすく見ていたのか。
「平均89回も見てたってことは、いつか触りたいのかなぁって思って……。
……自分でいうのもなんだけど、結構柔らかくて気持ちいよ?」
「……び、ビッチでげす! そんなの、ビッチでげす!」
「えー! ひどい! こんなこというの吉田くんしかいないのに!」
「な、なんですと! ほ、ホントでげすか?」
「ホントだよー! 私達もう8年の付き合いになる親友でしょ!
親友以外でこんなこと言わないよ!」
「し、親友にもなんだかおかしいでげすが……」
だが、本当に触っていいのか。
大学でも、職場でも、彼女の事が好きな男はたくさんいた。てか、いる!
「さー、吉田くん!
私にその例の物の値段を教えて!
その代わり! 私のおっぱいを3分間、自由にしていいわ!」
早川氏は、上着の胸元を大きくあけ、豊満な胸を突き出す。
……でかい。
私は再び、ゴクリとツバを飲んだ。さっきの音より2段階くらい大きい着がする。
「だ、だめでげす!
これは、これはだめでげす!」
「えええええ!
女に恥をかかせるの!」
「は、早川氏!
この価値を本当に知っているのなら!
こんなものではないでげす!!」
そう、たとえどんな素晴らしいおっぱいであってソレを自由にできたとしても、この例の物とでは割りわない。せいぜい、例の物の袋から匂いを嗅ぐ程度だ。
そのことを早川氏が知らないわけがない。わからないわけがない。
長年連れ添った友として。
「……ふ、さすがだね。吉田くん。
さすが私の親友。
ごめんね、騙すつもりじゃなかったんだ。
吉田君が例の物の価値がわかる人かどうか、試したくてね。
もし、間違った価値の見方していたら、無理矢理でも私のものにしようとしてたから」
「……やはり、自分をためしていたでげすか」
「ふふ、ごめんね。
でもなぁ……やっぱり知りたいしなぁ、値段」
「こればかりは、早川氏でも無理でげす。
そうでげすな……これからの人生、拙者に差し出すっていうのであれば、値段どころか例の物を見て触って、抱きしめてもいいでげすがね。
なーんて冗談でげ……」
「え……ほんと?」
「え?」
「そ、そんな……ま、まさか吉田君からプロポーズを言ってくれるなんて……」
「え?」
「え、っとうん。そっか……うん。そうだよね、うん。
わ、わたしの人生……あなたにあげる。だから、あなたの側にいさせて……」
「え?」
「お願い……します」
「…………」
彼女が深々と頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私も深々と頭をさげた。