日別アーカイブ: 2018年1月16日

Code;Witch 13話

13



重たい瞼をゆっくりあけ、徐々に義明の目に光が入ってくる。
寝起きなのに不思議と眠気なく、意識がはっきりしていた。そのため、身体のダルさと重さがしっかりと脳が意識し、全身に伝わってくる。インフルエンザが治ってすぐの状態みたいだった。指一本動かせる気力もない。
義明は自分の今の状況を想いでしていた。確か、でかい一つ目の化物と出くわして、食われそうになったところをアリ―が助けてくれて……それ以降、いくら思い出そうとしても、思い出せないということは、あの後気を失ったか……。それにしても、なんというタイミングでアリ―は助けてくれたのだろうか。今にも化物に食われそうなところを助けるなんて、まるで漫画のヒーローではないか。あまりにもベタすぎる展開だったから、このあとアリーとアベルトが「ドッキリでしたー!」なんていってきても、何も驚かない。むしろ安心する。でなければ、この世界は自分がいた世界と違って、“死”が近いということを肝に命じておかなければならない。今まで生きていて、本当に“死”というのを実感してことがない義明にとって、これほど未知で恐ろしいものはない。あの化物の一つ目が脳裏に浮かぶ。両脇がきゅっと締まり、肺が圧迫し、息苦しい。手にも力が入る。ダメだ、考えるな。義明は深く深呼吸をした。一回では足りない、二回、三回……十回目を過ぎたあたりでようやく落ち着いてきた。
落ち着いた義明は再び目を閉じようとしたときであった。すぐ近くで話し声が聞こえた。
違う声が2つ……いや3つ。1つはもうすでに聞き慣れた声、アリ―の声だ。残り2つは聞き覚えのある声。大人の女性の声と涙まじりの声だ。

「わだすは……わだすはなんてことを……」
「アベルト……いい加減泣きやまんか。
今回の件は明らかに想定外の事故だ。今後はこのようなことがないよう、しっかり対策を練ればよい。
……幸い、ヨシアキは無事だったのだからな」
アマンダはふぅっとため息を吐いた。
「でもぉぉぉ、でもぉぉぉぉ」
「お祖母様の言うとおりよ。そんなに自分を責めないで。
それに、不幸中の幸い……とでもいうのかしら……今回の件でヨシアキについてわかったことがあるもの」
(おれについて……わかったこと?)
アリ―の言葉を聞いた義明は、薄っすらとしか開いてなかった目を更に開き、なんとなく聞いていた会話を集中して聞くよう切り替えた。
「まさか十の災厄が残した邪素の中にいて気を失う程度とはな……。
魔力をまとっていない状態だと、一息吸っただけで呼吸困難に陥るというのに」
「ぐす……運良く瘴気が晴れてたんでしょうか……うううううう」
「いや、たとえ晴れていたとしても、魔力をまとっていないヨシアキは意識を保つことは無理だろう。本当にどうして生きていたのか……」
「うううううううう」
落ち着き始めたアベルトが再び泣きそうに唸る。
十の災厄が残した瘴気……もしかしてあの黒い霧のことだろうか。
だが、義明は黒い霧の中にいたし、その中で霧のことを調べようと匂いも嗅いだし、鼻から肺がいっぱいになるほど息を吸った。
アマンダが言うような呼吸困難などにはならなかった。
「それはきっとこれのおかげね」
アリ―は二人にうっすらいと赤い石のネックレスを見せた。
「石のネックレス?
……まさかその石がヨシアキを守ったと?」
「そのまさかですわ、お祖母様」
「で、でもその石からはそんな魔力は感じられ……」
「そうか……シークレット・コードか」
「えっ!?」
「はい、フレンダ様にしかかけない、魔術コード……シークレット・コードがこの石には刻まれています。
石全体に、髪の毛一本も入る隙間もないほどに」
石……石とはあの石のことだろうか。
祖母フレンダがプリン事件の後に置き手紙と一緒においてくれた、ほんのり赤い石。せっかく作ってくれたと思い、もらってからずっとつけていた。
まさかそれが自分の命を救うことになるとは、思ってもみなかった。
「……なるほど。95%フレンダの孫だと思っていたが、これで100%フレンダの孫ということがはっきりしたな。
そんな芸当ができるのは、フレンダしか……姉さんしかいない」
「すごい……これ、博物館ものですよ!
永久保存ですよ! 永久保存!」
アベルトの声から涙は消え、驚きと興奮が入り混じっていた。
「もしかすると、ヨシアキがこの世界に来た原因というのは、その石のせいかもしれんな」
「あ、そうか、そうですよ、アリ―所長!
フレンダ様のシークレット・コードが刻まれた石なら世界を突き破る力が備わっていてもおかしくはありません!
その石をもっと詳しく解析すれば、きっと次元魔法は完成しますよ!」
「……うーん」
「ど、どうしたんですか、アリ―所長?」
「いえ、確かにその可能性はなくもないのだけれど……
私はそこまでの力は無いように思えるの。
もっと別の……もっと大きい力……」
「で、でもあのフレンダ様が書いたシークレットコードが刻まれた石ですよ!
これ以上に力のあるものなんてないですよ!
魔力のないヨシアキ様自らが引き金となったとは思えませんし……その石で間違いないですよ!」
「ちょ、ちょっとアベルト、落ち着いて。
結論を急ぎすぎよ。なんにしても、とにかく調査をしないと。
それにこれはヨシアキのだから、ちゃんとヨシアキに許可をとらないと。
それに石よりまず、ヨシアキを調査しないと」
「なら早くヨシアキ様を調査して、かつ石の調査の許可をとって、徹底的に調べましょ! そしていち早く魔法を完成させて異世界へ行きましょう!」
「いや、異世界に行くことが目的の魔法では……ってアベルト!
まだヨシアキは寝て……」
アベルトはアリ―の静止を聞かず、義明が眠るベッドの方へズカズカとすすんでいき、勢いよくカーテンを開けるのであった。
「ヨシアキさまぁぁぁ!
さー! 調査が始まりますよぉぉ!」
「ちょっとアベルト!」
「……あいつさっきまで顔くしゃくしゃにして泣いておらんかったか?」



Code;Witch 12話

12



「えっと……ここどこ?」
気がつくとそこは先程と違う場所が、義明の目の前に広がっていた。
霧のような、だがそれは普段義明が知る白い霧でわなく、黒いモヤがあたりを覆っていた。1m先もまともに見れやしない。
義明はここに来る前のことを整理していた。
「えっと……光の中に入って、石柱にかかれている文字を読んでいたら、急に光だしたんだっけ?」
一緒にいたアベルトは作動しない、とかなんとか言っていたけど。何かの誤作動で発動してしまったのだろう。
でも一体何が原因なのか。
「それにしても、あの文字……」
石柱にかかれていた文字。魔術コード。確かに義明には何が書いてあるのかわからなかった。アルファベットでもなく、ましてや日本語でもない文字で書かれていた。読めるわけがない。
でも、なんとなくではあるが、あの文字が“どんな仕組みなのか”ということは、理解することができてしまった。
「いや、勘違いかもしれない。
もう一度あの文字を見ればわかると思うんだけど……」
もう一度周辺を見渡すも、見えるのは黒い霧。スペルディアの幻想的な世界とはまったくかけ離れたところだ。
(まさか、また別の世界にとばされたってことないよね……いやいや、確か転移先は指定しないと行けなかったはず……)
義明は不意に心細さを感じ始める。
「と、とにかく、戻ろう!……え! 光がなくなってる!」
アベルトの話では転送先に同じものがあり、それで行き来するという話だったはず。義明は膝をつき、地面を確認する。確かにちゃんと研究所と同じ魔法陣がそこにあった。だが、書かれているだけで光を発していない。
義明に焦りが出始める。
「そ、そだ! 文字!」
先程は魔術コードを見ている最中に起動したのだ。同じことをすればまた光が発するかもしれない。
だが、義明は立ち上がり石柱を探すが、見当たらなかった。
「おいおいおい、マジかよ……」

「ああああ! なんで! なんで動いちゃったの!
ありえないんですけど!」
ヨシアキが別の場所に飛ばされた後、アベルトは転移光陣を弄って原因を探っていた。
「なんで! なんで動かないの!
ああああ! どうしよ!」
すぐさま後を追おうとしたが、転移光陣を起動させようとしたのだが、一向に作動する気配がない。
アベルトの顔がみるみるうちに青くなり、頬から大量の冷や汗が流れていた。
「しかもよりによってここの光陣が動くなんて……」
「あら? アベルト、そこで何をしているの?」
「あわう!!」
うんともすんとも言わない装置の前で、あたふたしていると、よく聞くアリ―の声が聞こえた。
声をかけられたアベルトは、両肩がクイッと上がり身体が硬直する。おそるおそる振り返ると案の定アリ―がいる。それだけではない、なんとこの国のトップのアマンダもいるではないか。
「あ、アリ―様……アマンダ様」
「ちょっとアベルト、研究所内では“様”じゃなくて“所長”って言ってるでしょ」
「なぁ、アリ―、前々から思ってたのだが、別にどっちでもよくないか?」
「まぁ! よくないわ、お祖母様! “様”で呼ばれるのと、“所長”と呼ばれるのでは、気持ちの入り方が全然違うのですもの!
だから、お祖母様もここではちゃんとアリー“所長”と呼んでくださいね! 例外は認めません!」
「あぁ、わかったわかった」
アマンダは面倒くさそうに、アリ―の肩をポンポンと叩き、アリ―の暴走をおさめる。
二人が軽い言い合いをしているなか、その二人のやり取りなどアベルトの耳に入ってこない。とにかく今の起きている状況を早く報告しなければならない。
だが、早く説明しなきゃいけないと思えば思うほど、心が動転してしまってなかなか声がでないでいた。
「アベルトも、今度から気をつけ……どうしたの、アベルト。汗びっしょりよ?
もしかして体調でも悪いの?」
「確かに……顔色も悪いな。大丈夫か?」
アベルトは無言で首を縦にふる。それを見た二人は「そう?」ととりあえず納得した。言うなら今しかない。アベルトは意を決して報告しようとした。
「あ、あの……あのですね……」
「そういえば、ヨシアキは? 一緒じゃないの?」
アベルトの身体が再び硬直する。
「トイレではないか? それかお前の部屋で一人さびしく待っているのか。
可愛いそうに……何もわからない場所で一人放置されて、さぞ心細かろうに……」
「お、お祖母様! そんな言い方しないでください! 私はアベルトが任せろというので、それで」
「ふ、わかっている。からかっているだけだ」
「もう! お祖母様!」
「ふふふ、してアベルトよ。ヨシアキはどこにいるのだ? 私も是非ヨシアキに逢いたいのだ。
今日は時間が作れてな。食事でもしながらゆっくり話を聞こうと思ってなって……おい、どうしてそんなに今にも泣きそうな顔をするのだ! ほんとに大丈夫か!」
「ヨシアキ様が……ヨシアキさまがぁぁぁぁぁ」
「よ、ヨシアキがどうしたのか?」
アベルトは泣きながら転移光陣の方を指さす。
「……まさか他の場所に転移してしまったのか。まぁヨシアキはフレンダの孫だ。極小だとは思うが、魔力は持っているだろう。作動してしまっても仕方あるまい。
だが、そんな絶望的な顔をすることもなかろう。確かに、むやみに装置を触らしたのは失態だが、すぐに同じ転移光陣に乗って追いかければいいのだから。なぁ、アリ―。
……アリ―?」
アマンダが呼びかけるも反応がない。アリ―は転移光陣をじーっと見つめたまま、そしてどんどん不安そうな表情になっていく。
何かと思い、アリ―がみる方アマンダも視線をやる。その先にはひとつだけ光を発していないものがあった。
確かあそこの転移先は……と、記憶を蘇らせていくと今度はアマンダもみるみるうちに眉を中心に寄せ、不安そうな表情となった。
まさか、そんなことが……もしそうならこんなことをしている暇ないのだ。
だが、なんにしてもまずは確認しないと。一部始終を見ていたであろうアベルトに確認せねば。
「ねぇ……アベルト……。
ヨシアキが起動してしまった転移光陣って……」
予想と違う答えをくれと、心の中で祈る。
アベルトは鼻をすすり、嗚咽混じりの声で答えた。
「えぐ……えぐ…………禁止……区域E……ちてん……の……です……えぐ……えぐ」
それを聞いたアリ―とアマンダは、一気に血の気が引いたのだった。

義明はじーっとその場で立ち尽くしていた。正確にはせわしなく足踏みをしたり、屈伸をしたり、しゃがんだりしている。さっきから落ち着かないのだ。この黒い霧のせいで下手に動くこともできない。スマフォがあれば、そんなことは無いのだが……。なくなって初めてありがたみがわかるとは、まさにこのことだと、心のなかでブツブツとつぶやく。
「せめてこの薄気味悪い霧が晴れてくれれば……」
無意識に口に心の声が外に漏れる。
そもそもこれは黒いモヤは霧なのか、非常に気になるところだ。
実は得体の知れない、人体に影響がでるガスなんじゃなかろうか。無臭だが、ここは異世界。自分のいた世界の常識と一緒にしてしまっては、いずれ取り返しのつかないことになりかねない。
「霧よぉ〜晴れろ〜霧よぉ〜晴れろぉ〜……ほいっ!」
義明のイメージする魔法発動をやってみる。だが当然、なにか起こるわけもなく、やりおったあとに、「なにやってんだろ」と虚しい気持ちになった。
ふーっとため息を吐いたときだった。なんと霧がだんだんと嘘のように晴れ始める。こんな偶然があるのだろうか。
霧が晴れていくに連れ、義明のさきほどまでの不安で退屈な気持ちが晴れていく。
そして晴れていくにつれ、前方に赤っぽい光が見え始める。もしかすると民家の明かりかも知れない。光の大きさからして、ここからそこまで離れていないだろう。霧が晴れたらそこまで行ってみよう。スペルディアは世界屈指の魔法大国と、アリ―が言っていた。たとえ、ど田舎の国でも知らいない人はいないはず。自分が何処にいるのかきっと分かるはずだ。
「よっしゃ! 霧がはれ……え?」
霧が完全にあたりがより鮮明に見えるようになり、赤い光がある方へ向かおうと足を踏み入れたときだった。
先程から見えていた赤い光。霧が晴れたことにより、その光の正体がわかった。
その光は民家ではなかった。街頭とかそういうものでもなかった。
“グルルルルルルルルルルル”
その正体は、目が一つしかない大きな獣だった。人の顔くらいある大きな一つ目が赤く光っている。あの光はこの目から発されたものだった。
大きな一つ目がじっと義明のことを見つめている。ただ見ているのではない。姿勢を低くし、飛びかかる体勢、狩りの体勢であった。
「……」
蛇に睨まれた蛙。義明は悲鳴も挙げられなかった。だが、それが正解だった。
この一つ目の獣はまだ、義明が獲物だと完全には把握していなかった。きっとあの黒い霧のせいでしっかり義明を認識することができなかったのだろう。それを証拠に、義明を見つめたままそれ以降動こうとしない。
義明の頭の中でどんなことをすべきなのか、必死に考えた。
この獣は自分を食べようとしている。それは間違いない。じゃーどうする。
獣が目を話したときを狙って一気に逃げるか。いや、とてもじゃないが逃げ切れる自信がない。人間なんて走ったところで頑張ってもせいぜい40〜50キロぐらいしかでないのだ。インドアな義明がそんな速度でずっと走りつづけられるわけがない。
そうこう考えているうちに痺れをきらしたのか、一つ目の獣が、義明のほうへゆっくりと向かってくる。そして義明の匂いをクンクンと嗅ぎ始める。これにはたまらず義明は尻もちをついてしまった。
尻もちをついた義明を獣はじっと見つめ、そしてにやーっと口を左右にひろげさせた。
“あ、やっぱり餌だったんだ”とでも言ってそうだった。口からはギザギザとした歯が見える。まるでノコギリの歯のように、隙間なくぎっしりと歯が敷き詰められていた。
(あ、死ぬ……)
獣の歯を見て義明は悟った。あの大きな口に今から入れられて、そのあと骨ごとボリボリと食われちまうんだ。
(まだ、まだやりたいことたくさんあるのに……)
製作途中のオリジナルプログラミング言語『Witch』を完成させたいし、彼女つくっていい感じな青春も送りたいし、ほしい高スペックなパソコンを無駄に買い揃えたいし、犬も飼いたいし、車も乗ってみたいし、世界一周してみたいし。
ああ、もうダメだ。

「ヨシアキ!!」
自分の名が聞こえる、その声がする上空を見上げる。
(ああああああああああああ! アリ―—————!!!)
叫びたかったが声がでない。代わりに目からドバっと涙が溢れ出てきた。
アリ―は箒にのり、こちらに猛スピードへ突っ込んでくる。
獣もアリ―に気づき、アリ―の方を見ると、とたんに、喉から太いドロっとした唸り声をアリ―に向かって放っている。
アリ―のことを獲物ではなく、敵として認識しているのだ。先程ニヤッと緩んでいた口が、キュッと引き締められていた。
「ヨシアキ! そこから離れて!」
アリ―の指示に、義明はすぐさま這うようにその場から離れた。獣は義明に目もくれず、ずっとアリ―の方をみて、警戒している。
義明が離れると同時に、アリーは両手を合わせる。
すると、アリ―の手が赤く光はじめ、そして両手には真っ赤に燃え上がる炎が出現した。
がぁあああああああああ!
炎みた獣は吠える。そしてすぐさま上空にいるアリ―に向かってジャンプした。
獣の爪がアリ―に当たろうとしたそのとき。

「———フレアクラッシュ!」

アリ―の両手あった炎を獣に向かって放ち、そしてドーンと大きい音を立てて爆発した。
爆炎を食らった獣は背中から地面に落下し、そして動かなくなった。
「……すげー」
「ヨシアキ! 大丈夫!? 怪我とかしてない!?」
アリ―が箒から降り、義明の身体を包み込むように出し決めた。
アリ―の声と抱きしめられたぬくもりで義明の身体全体を支配していた恐怖が徐々に消えていき、本当に助かったんだと、安心だと頭のなかで整理始めた。
「死ぬかと思った……」
そして義明は糸が切れた人形のように気絶した。