日別アーカイブ: 2018年1月28日

Code;Witch 15話

15



異世界に来てから3日目の朝を迎えた。
義明は一人、お留守番していた。正確には朝起きたら、アリ―の姿はなくテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。

『ヨシアキへ
よく眠っていたから起こさないでおきました。
今日は、例の石の調査が始まるので、研究所に行ってきます。
朝ごはんとお昼ごはんはテーブルの上においておきます。
温かさを持続させる魔法がかけてあるから、いつでも美味しく食べられるわ。
晩御飯のころには帰ります。
アリ―より

PS
危ないから外にでないでね』

「大丈夫、でないよ。
もうあれは懲り懲りだ……」
巨大な一つ目の獣。
クマやライオンなど比にならない大きさの化物。思い出すだけで、ぞわぞわっと背筋に虫が這うような気持ち悪さを感じる。
何かに食われる。そんなこと考えたこともない。

「それにしても綺麗な字だなぁ。心が優しいと字もきれいなのかね……ってなーんてオレは何をいって……?」
手紙を読み終わると、何かを違和感を感じる。
義明はもう一度アリ―の手紙を読み返す。おかしいところは何もない。普通だ。だが、読み返せば読み返すほど、違和感が生まれてくる。
『はやく気づけよ〜、はやく気づけよ〜』と何かが腋を必要以上に小突いてくるような不快感さえ思えはじめた。
この違和感の正体を突き止めたい。でないと気になって……、と思ったとき腹の虫が『ぐ〜』となりだした。
視線を手紙からアリ―が作ってくれた料理に向ける。目玉焼きと食パンとサラダが、おいてある。
すると腹の虫がどんどんなり始める。『早く! 早く!』と。
(あとで、いっか)
まずは腹ごしらえだ。腹が減っては、戦はできぬ。プログラミングを書いているときもそうだ。煮詰まったときは一度その問題から離れ、リフレッシュするとそのあとは面白いほど、煮詰まっていた問題が解決することがよくある。
なんだか、プログラミング書いていたときのことがすごく懐かしく思える。まだ3日しか経っていないというのに、すごく昔のことに感じる。
毎日書いていたんだ。そう思うのも仕方のないことだ。
「いただきます」
義明はパンをかじる。歯を入れるとさくっといい音がし、中はフワッフワとまるで焼きたてのパンのようだった。いや、焼き立てそのものだった。
「うんまっ!」
自然と声が漏れる。
こんなに美味しいパンは食べたことがない。美味しくなる魔法でもかけているのだろうか。あっという間に一個食べ終わり、また一個、また一個と、両手にパンを持って頬張った。
目玉焼きはパンの上に乗せ、そこにパンを挟み、サンドにして食べる。中から温かいトロッとした黄身が溢れ出してくる。目玉焼きも本当に美味しい。
カゴいっぱいにあったパンが、あっという間に平らげてしまった。
(こんなに朝ごはんを食べたの……ずいぶん久しぶりだな……)
「アリ―、ご馳走さまでした」
義明はふーっと息を吐く。帰ったらお礼と、感想をいわなければ。
義明は再び手紙をとり、今度は感謝を意を込めながらじっくりとアリ―のきれいな文章を読んだ。
同時に、今までの違和感の正体が判明した。
「あれ……そういえばなんでオレ……アリ―の字を読めるんだ?」
アリ―の手紙を何度も読み返す。何度読んでもそれは日本語で書かれている文章ではなかった。当然英語のようなアルファベットではない、ロシア語やアラビア語のような文字ではない。
「古代文字……て、いうんだろうな、オレにとっては……。
そういえば、あの転送装置のときも……」
黒い霧が覆う場所に転移する前に、書かれていた文字。
今回みたいに全部の意味がわからなかったが、それでもどんなことが書かれているかは、なんとなく理解できた。
まるで脳内で自動変換されているような感覚だった。
「どういうこと何だ……? もしかして他の文章も読めたりするのか?」
義明はあたりを見渡した。何か文章があるものはないか。
すると、キッチンのところに一冊の本がおいてある。分厚い、辞書みたいな本だ。義明は手に取り、本を開き、中身を読み出した。

「はい、今日の講義はここまで。
今回の内容について、各自レポートをまとめること。いいわね」
そういって生徒たちの返事を待たずに、アリ―はすぐさま講義室を出ると同時に早歩きとなった。本当だったら全力疾走したい。箒に乗って最高速度で移動したい。移動は絶対歩くという絶対的なルールを作った創設者が今は恨めしい。
こんな逸る気持ちはいつぶりか。大好きな講義を、一秒でも早く終わらないかと終了30分前には、ソワソワと時計を見ていた。
「あ! アリ―所長! 聞いてください! 昨日僕ら……」
「駄目! 後にして、今日は、というかしばらく無理です! 質問等はまた来週でお願い!!」
生徒の呼びかけにも、いつも笑顔で答えるアリ―だが、今回は異例中の異例。
だかれ、生徒たちに動揺が走る。いや、生徒たちだけではない。研究員たちもアリーの行動に目が点になっていた。
「どう!」
ガラッと勢い良く研究室の扉をあけ、中にいる人物に声をかける。すこし息が上がっていた。
「あ、所長。早いですね。
……まさか走ってきたんですか?」
「走ってないわよ。人生最高速度で歩いたのよ!」
「は、はぁ」
「そんなことより、アベルト!
どう? 何か変化あった?」
「んー、何も変化ないですね……。もう解除魔法をかけて5時間になりますけど……まったく変化がおきないですね」
「……なるほど。さすがフレンダ様。
こんな硬いプロテクトを作ってしまうなんて……」
「別の方法を試しますか?」
「……いえ今日は、このまま朝まで解除魔法をかけ続けましょう。
それより、シークレットコードの写しはできた?」
「はい……ですが、見たことのないコードで……、ただでさえ5分の1しか写し出せなかったのに、これでは……」
「うーん……」
アリ―はアベルトからコードの写しに目を通す。確かに見たこと無い文字だ。この世界の文字の7割りは読むことができるアリ―でさえ読めないとは。文字さえ読めれば、シークレットコードの解析が大いに進むと心踊っていたのだが……。
「いや、逆にこれはこれで面白いわ!
まだ私の知らないことがたくさんあるのね! これはもしかするとフレンダ様が独自で開発したコードかもしれないわ」
そう思うと更に気持ちが高ぶり、ニヤニヤが止まらない。
「さっそく部屋にこもって解析するわ。しばらく誰も入れないようにするから……その前になにかある?」
「えーっと……とくには……あ!
昨日、2人組の学生が何やら新種の虫を見つけたと騒いでいましたね。
捕まえて、所長に見せるんだって意気込んでましたよ」
「……新種の虫?」
「あ、その様子だと、彼らは捕まえられなかったらしいですね」
アリ―は眉を細める。
そして、脳内で結論付けたのか、軽くため息を吐いた。
「どうせ、魔法実験で変異してしまった虫でしょう」
「私もそう思います。
でも気になったのが魔法罠を食い破ったっていってたんですよ」
「へぇー」
これには細めていた目が軽く開かれる。
「学生の魔法罠とは言え、魔法を食い破る……か。
うん、それは実験のやりがいのある虫ね」
「あ、それ。私も同じこと考えてました」
アリーとアベルトはくすっと二人して笑った。アベルトのこういう気があうところが、アリ―は好きだった。自分の研究室に招いて本当に良かったと感じる。
「あ、そういえば。ヨシアキ様は一人で大丈夫ですか?
おきたときに一人だと、流石に驚くのでは……」
「大丈夫。ちゃんと置き手紙を残しておいたわ。リラックスの魔法もかけておいたし。きっと今頃寛いで私の手料理を食べてることよ」
美味しそうに料理を食べるヨシアキを想像し、アリ―は嬉しい気持ちになった。両手にパンを持って、あむあむと頬張るヨシアキは、なんと可愛らしいんだろうと。
今日の夜はもっと美味しい料理をご馳走してあげよう。
「え、あれ? 所長。でも、ヨシアキ様。この世界の文字読めるんですか?」
「ふっふっふ。そのあたりはちゃんと抜かりはないわ!」
ジャーンと一枚の紙切れをアベルトに見せる。
「え? まさか翻訳切手ですか! すごい! こんなレアなアイテム!
なるほど! 確かにこれなら!」
「そう、これさえ紙に貼れば、どんな文字も一発で読めちゃうわ」
「よく持ってましたねぇ! そんな貴重なもの」
「ええ、たまたま一枚だけ見つかったのよ。だから、置き手紙を残すという手段を使ったのよ」
アリ―は大げさに胸を張って、得意げな顔をする。ここでいつもなら、アベルトがあははっと笑ってくれるのだが、アベルトの表情は疑問が残っている顔であった。
「ん? どうしたの?」
「あ、あのー、所長。
翻訳切手って字を書く紙にそれ貼らないと効果が……」
「……あ」



SS こっそりと

こっそりと



「花ちゃん、時間ある? もしあるなら、お礼にコーヒーおごるけど」
「……すみません、課長。このあとすぐに2階に呼ばれてるんです」
「あら、そうなの? 花ちゃん人気もの〜」
「あははは……」
「まぁ、実際、花ちゃんが入ってくれたおかげで、みんな助かってるからね。
みんな言ってるよ。花ちゃんのおかげ、仕事がスムーズにいくって」
「いやいや、そんな。私なんて……」
「本当だって。部長も言ってたよ。よくあんないい人材がこの会社来てくれたって。本当よかったって」
「本当ですか? ……それなら、嬉しいですね」
「ふふ、あ。引き止めてごめんなさいね。依頼、がんばってね」
「はい、ありがとうございます。課長」

ソールメイト株式会社は、電話営業を主軸とするコールセンターの会社である。従業員数2000人を超える、県内では5本の指にはいるほどの大きいコールセンターだ。
従業員のうち正社員は50人もおらず、その殆どが、パート・アルバイトの20代後半から70代前半までの女性で構成されている。
私、中谷 花は、今年10月(今から1ヶ月前に)に転職してきた、数少ない正社員の一人だ。
コールセンターの会社に入社したからといって、電話営業をやるわけではない。私が所属している部署はバックヤードで現場を支援する、管理部の一員だ。その部署のシステム課の社内システムエンジニアとして、パソコン関連のヘルプデスク業務や新システムの導入や、コールツールの改修などを主な仕事としている。
入社当日に人事から「中谷さん、営業でもできるよ。どう営業にいかない?」と言われたが、全力でお断りをした。
営業なんてやってられない。やりたくない。
なんのために前職の経験が活かせる職種を選んだと思ってるんだか。
私はもう前職のようなあんな仕事はしたくない。楽して、得意なことで食って行くんだ。そのためにここに入社したんだ。
「でも……正直、失敗したなぁ……」
楽な仕事と思って入社したが、全然楽ではない。
もちろん、前職に比べたら仕事はかなり楽だ。
楽だが、前職にはなかった辛さがここにはあった。

ソレが2つある。
7年以上在籍しているのにも、関わらず殆どの社員から信頼がない、私の先輩。面接したときは、「いい人だな」「前職の暴力野郎とうはわけが違うな」と思ったのだが、蓋を開けてみればとても仕事ができない人であった。
それはシステム部分の知識ではなく、仕事のススメ方だ。この人、2つ以上の仕事を効率よく捌くことができないのだ。2つ以上仕事があると、頭が混乱して、うまく調整が効かず、私に仕事を振ってくる。いや、振るのは構わない。振るのならちゃんと説明して振ってほしい。
もう一つは、この会社のパソコン知識が、めちゃくちゃないということ。それは正社員を含めてだ。
まさか「強制終了はどうやるのか」と聞かれたときは、冗談でいってるのではないかと思ったほどだ。
ネットが繋がらないと強めの口調で内線してきて、いざ確認してみるとネットケーブル(LANケーブル)が外れているだけとか。そもそも、ケーブルをつなげないとネット見れないことを知らなかった。
こんな細かい依頼(依頼といっていいのかわからないが)が、15分置きにくるのだから、私は管理部のある8階と現場の2階を行ったり来たりしているのだ。
自席を温める時間なんて皆無だった。
「お疲れ様です。どうしました?」
「ちょっと中谷さん。これ、なんか変なのがでてきたんだけど。毎回でるんだけど、これなんなの?」
「あ。それはセキュリティソフトの定期診断なので、放置しておいてくださいね」

ストレスを和らげる時間のお昼休憩の時間。私はふーっと一息ついてお弁当が入っているロッカーを開ける。すると、そこに自分が入れた覚えがない、お菓子が一つはいっていた。私はそれを見て、口角があがる。
入れた覚えはないが、誰がいれてくれたのか、私はわかっている。
「栄子さん、またこっそりいれてくれたんだ」
栄子さんは、2階で電話営業をやっているパートのオペレーターさんだ。たまたま帰る方向が一緒になり、そのとき話した趣味の話題で盛り上がり、それ以来仲良くしてくれている。
栄子さんが美味しいチョコを買ったからおすそ分けをしたいということになり、私のロッカーに入れといてほしいとお願いした。そのとき、栄子さんが
「なんだか悪いことしてないのに、悪いことしてるみたいでドキドキしてなんだかいい感じだったわ」
と嬉しそうに話していたので、それから私もお返しにこっそりと栄子さんのロッカーにお菓子を入れた。栄子さんが言ったようになんだかドキドキして、いい感じだった。
以来、不定期にこっそりとお菓子を渡し合う関係となった。
(それにしても、栄子さんはいつ入れてるのだろうか……)
基本、パートのオペレーターは指定された休憩時間外に休憩室に行くことを禁止されている。
(うまく抜け出せてるんだなぁ。営業成績がトップクラスなのだからかな?)
いや関係ない。
私は栄子さんがくれたイチゴのチョコレートを口にポイッと投げ込む。
すると口の中にほんのり甘酸っぱいイチゴの味が、いっぱいに広がった。

後日、私はこの間のチョコのお返しに、栄子さんへのロッカーに近づくチャンスを伺っていた。だが、なかなかそのチャンスが訪れない。
「もう、なんでよ! 金曜なのにこんなに依頼が多いのよ!」
私はエレベーターの中で一人、扉が閉じた瞬間に思いの丈を感情込めて言った。言い切ったあと、監視カメラと目があった。私は思いっきり睨みつけた。
「あと30分しかない。栄子さん今日12時までだから帰っちゃうよ……」
先程受けた依頼は、話の長い部長からだった。捕まったら最後、最低30分は拘束されてしまう。
そんなことになったら今日中に栄子さんに、お礼のお菓子を渡すことができない。そんなの嫌。今日渡したい。
私はエレベーターが移動中に、休憩室のある3階にいくため3のボタンを力込めて押した。
(さっと、最速で入れる!)
すぐに部長のところに行けば、問題ない。この時間なら誰も休憩室にはいないはず。
「よかった、電気消えてる」
私はポッケに入れて準備していたお菓子を確認し、休憩室に入る。
明かりをつける時間も惜しい。
私は急いで栄子さんのロッカーの前までいく。
「えっとぜろ……よん……さん……あ、ずれた」
ロッカーはダイヤル式の鍵がつけられている。暗い上に、焦っているからなかなか揃えられない。
「よし、そろっ……」
「たく……だれだよ。電気消したやつ。喫煙所まで消すなよな」
(え!)
私はロッカーを開ける寸前で、とっさにロッカーの物陰にかくれた。
(部長!)
危なかった。まさか休憩室の奥の喫煙所にいるなんて。
そもそも、人を呼んでおいて、タバコをすっているとはどういうつもりなのだろうか。普段、すぐ来いとか言うくせにと文句言ってやりたいが……だが、今はいい。
電気を消しておいてよかった。暗くて私のことは気づいていないみたいだった。それを証明するかのように、部長はすぐに休憩室を出ていった。
私は一息ついて、再び栄子さんのロッカーを開けて、お菓子を入れ、そしてすぐに休憩室をでた。こっそりと。

また後日。
私のロッカーの中には、お菓子がまた一つはいっていた。