日別アーカイブ: 2018年1月29日

やだけど笑え



「やだ、私はやりたいくない」
「でも、君以外にデキる人いなから……」
「やだ。嫌なものは嫌です。どうしてこんな大雪の日に私が行かないと駄目なんですか」
これのやり取りが始まって、かれこれ25分以上経過している。流石に周りも疎ましく思いはじめ、チラチラと経理部のおばちゃんがこちらをうっとしそうにみている。人事部の若い事務員は一人だけ興味深そうに見ている。
「だから! 君以外に行ける人間がいないって言ってるだろう! 何度いえばわかるんだ! さっさと言ってこい! このあふぉがああああ!」
怒鳴るや否や、腕を掴み無理やり外に出され、呆気にとられる。まさかあんな態度をするとは思わず、反抗する暇もなかった。
普段怒らない人が怒ると怖いんだな。
あの場にいた皆が同じことを思っただろう。
強風に吹かれる大粒の雪が頬に当たる。ビュービューと耳の中を刺激する。まともに目を開けてられない。目が凍ってしまう。
「無理……こんなの無理」
戻ろう。そしてやつに一言、いや千言言ってやる。手が出るかもしれないが、仕方ない。
だが、怒り虚しく扉を開くことができない。
「鍵かけるか? 普通」
どうやら今回はガチのようだった。戻ることができないのなら、進むしか無い。
「こんな大雪……ここは北極か南極か。
てことは、私はアザラシだな」
ペンギンでもいい。そしてらうつ伏せになってスーッと滑ってやる。
だが、そんなことはできない。一歩、一歩、ザクザクっと音を立てながら先へ進む。歩けば歩くほど、靴の中に雪が入る。もう冷たすぎて足先の感覚がない。
「肺が凍りそうだ……」
鼻水もたれる。そしてなんと鼻水が凍っているではないか。
昔、鼻水を凍らせて、凍らせた鼻水を鼻息で吹き矢の如く飛ばして攻撃してくる雪だるまの怪人を思い出した。
自分はまさしくそれだと思うと、笑いがこみ上げてくる。もしかしたら、出来るかもしれない。やらないが。
笑うと不思議と怒りが収まってくる。そして自分がまだまだ頑張れることがわかった。
笑えば行ける。余裕だ。
いろいろ想像した。氷漬けになるヤツ。雪崩に巻き込まれるヤツ。池に落ちて凍るヤツ。知らない人に服を全部盗まれて裸でブルブル言わせているヤツ。
なぜか全部ヤツのことを考えてしまう。
もしかしたらヤツのことが好きなのかもしれない。
そんなアホな。でも笑える。
そんなことを考える自分が笑える。笑いのエンドレス。
「笑うとなんかいいな」
気がつけば、目的地に到着。
意外とできる。笑ったからだ。笑わしてくれたヤツに感謝した。
「ただいま」
「あれ?! あんた仕事は?」
「辞めてきた!」