月別アーカイブ: 2018年1月

Code;Witch 10話

10



家を出るとき、またあの汗だくになるルートを通らなければならないのかと、義明は心の中で愚痴を吐いた。
義明は人一倍汗っかき。真夏だろうと、真冬だろうと、ちょっと歩いただけで、汗をかき、コメカミから顎にかけて、ツゥーっと汗が滴ることがよくあるのだ。代謝がいいと聞こえはいいが、汗をかく当事者は、気持ち悪いったらありゃしない。
そんな義明の心情を察したのか、アリーがニコっと笑っていった。
「大丈夫よ。あれは最初だけ」
「最初だけ?」
「そうよ。あれは結界なの。
初めてこの家に入るには設定した道の通り、そこで特定の行動を取らないと家に入ることができないの。
一度入れば私が許可したってことで、自由にこの家に入ることができるわ」
なぜそんな面倒なことを……。再びそれ察したのか、アリーは苦笑いをしながら言った。
「んー、ほら、私、なんか人気あるじゃない? 自分で言うのもなんだけど……。まぁその人気で。いいこともあれば、悪いこともあって……」
いい意味でも悪い意味でも。おそらく後者はアリーに対して良からないことを考える輩のことだろう。アリーは女性、それもとびっきりの美女だ。過剰なファンがいてもおかしくはない。
「もし、間違ったルートで行くとどうなるの?」
「廃墟の屋敷で行き止まり。それと一年間、たとえ正しいルートを通っても私の家には辿りつけないわ。あと、三回間違えると、呪いがかかるわ」
「の、呪い……」
「といっても、そんな大げさなことじゃないわ。一ヶ月間トイレとお友達になったりとか、一ヶ月間身体からキツイ加齢臭がするとか、一ヶ月間なぜか出費がかさみ資産が千分の一なったりとかね」
「……ゲームのダンジョンみたい」
義明は自身が好きなゲームのことを思い出した。
「ゲーム? あら、ヨシアキの世界にこんな遊びがあるの? 変わってるわね」
「いや、遊びは遊びでも、アリーが想像しているような遊びじゃないよ。
テレビゲームっていうんだけど……たぶんアリーはわからないかな」
アリーの家にはテレビはない。テレビもなければ、冷蔵庫も、電子レンジも、掃除機も、そして義明がよく使うパソコンもない。いわゆる一般家庭にある家電が存在しなかった。
異世界だから当然といえば当然なのかもしれないが、いざ無いってなると違和感がでる。普段よく目にし、使うものがないとここまでソワソワするものなのかと、不思議に感じた。
「テレビ……ゲーム? ゲームはわかるけど……テレビって何?」
「映像を移す、箱のような板のような機械かな」
「映像を移す……キカイ……? クリスタのようなものかしら」
「ん? 機械って知らない?」
「ええ、聞いたことないわ……どういうものなの?」
異世界だ。当然といえば当然か。
「うーん、電気で動く道具って言ったらいいのかなぁ」
「デンキ?」
「え、電気もわからない? えっと、あ、雷系の魔法ってないかな?」
「ええ、もちろんあるわよ。……え! まさか電気って雷のこと?」
「んー、まぁそんな感じかな」
「へぇー!」
アリーは目を大きくあけて、驚いた。
「ヨシアキの世界は面白いわ……まさか雷……それと同じものを使って道具を動かすなんて……。
そのデンキっというのは雷から取り出すのかしら。雷がよく発生する場所があるのね」
「いや、電気は作ってるんだよ。雷は強すぎて使えないんだ」
再びアリーが驚いく。先程の驚きとは違い、目が限界まで開かれた状態だった。
「え、ちょ、ちょっとまって! ヨシアキの世界には魔力が無いのよね? どうやってその電気を作っているの!」
「えっと……いや、俺も専門家とかじゃないから詳しくわからないけど、太陽光とか風力とか水力とか火力とかで、電気をつくってるよ。科学の力ってやつだな」
「太陽の光ですって……」
信じられないという顔をするアリー。そして顎に手を当ててだんまりになってしまった。
頭の中では魔力もなしに、電気を作ることができるのか考えていた。そしてすぐに答えがでた。答えはノーだ。
映像を写すものは、この世界にも存在する。だがそれは魔力によって動いている。彼女の世界では魔力や魔法によって世の中が成り立っている。あらゆる理論に魔力が関連しており、それがなくなるとこの世のすべての理論が崩壊する。火を起こすのも、風を作るのも、雷をつくるのも、すべて魔力が必要不可欠だ。
それなのに、義明の世界では魔力を使わず、魔法を使わずあらゆるものを生み出しているらしい。
信じられなかった。だが、義明が嘘を言っているようには見えない。
実はアリ―は魔力もない、魔法もない義明の世界を、発展が遅れている世界だというイメージがあった。だが、さきほどの話でその認識を改なければならない。自分たちがもし魔力なし魔法なしの世界になったら生き残れるのか。ほぼ不可能だ。そもそも魔力がなかったら十の災厄に軽く百回は世界を滅ぼされていることだろう。
義明の世界はこの世界よりも技術が凄まじいものなのかもしれない。義明が先程言った『科学の力』。一体どんなものなのだろうか。アリ―は身体の内側から熱い好奇心が、沸々とマグマのようにじんわりと身体中を駆け巡っていく。
「ヨシアキの世界……ぜひ行ってみたいわ!」
「え、そ、そう?」
「ええ! そのために次元魔法を完成させてヨシアキの世界にいくわ!
こうしちゃいられない。すぐに研究所に行かないと!」
「え、ちょ、ちょまってアリ―!」

フルロラル魔法開発研究所。
魔法大国『スペルディア』が誇る世界最高の魔法研究所。
名前の通りに魔法を研究開発ができる施設だが、それだけではなく、学校のように魔法を学び、優秀な魔女、魔道士を世に送り出す学びの場所でもある。
小さいこどもから、お年寄りまで、幅広い年齢、幅広い種族が魔法を学びにこの研究所を訪れる。この施設人口は5000人を超える超マンモス校であり、毎年春と秋に入所試験が行われていおり、倍率は二百から五百倍となる。
施設名のフルロラルは、世界征服を実行しようとした最初の魔王と闘った魔女の名前。また、あらゆる魔法理論の根幹を構築した魔女でもある。
根っからの魔法第一主義者、つまり魔力を持たないもの、魔法を使えないものを完全に下に見ており、それは共に旅した仲間たちも例外ではなく、よく仲間の戦士(後に勇者となる)とよく歪みあっていた。
そんな魔女が作った研究所であったため、当初この研究所は魔力を持たないものはもちろん、魔力があっても魔法を扱えないもの、魔法が扱えても中級以上の魔法を扱えないものは、敷地内すら入れない場所であった。
だが、その分、魔法に関する研究にはうってつけの場所である、設備はこれでもかというくらい、充実している。他国の研究機関が指を加えて羨ましがり、誰もがこの研究所に入所したがった。
現在のように試験に合格すれば誰でも入所できるようになったのは、『十の災厄』が現れてからであった。
『十の災厄』に対抗できるより優秀な魔女、優秀な魔道士が不足する事態がおきる。『十の災厄』が滅んだあと、このような自体を再び起こすわけには行かないとアリ―の祖母、アマンダがあらゆる反対を押し切り、古い制度を廃止し、現在のような体制となったのだった。
アリ―は猛スピードで箒を飛ばし、家を出て3分で研究所に到着した。義明はすこし長いジェットコースターを味わうこととなり、箒を降りたときに少しふらつき、転けそうになる。なんとか踏みとどまり義明は、目の前に広がる研究所を見る。
「で、でかい……ひ、広い!」
「ふふ、すごいでしょ。広さはグルグランデ200匹分くらいかしら。我が国、いえ、世界で一番の魔法研究所よ。広さも大きさも、歴史も、設備も、実績もね」
胸をはって誇らしげに、アリ―は言う。アリ―の豊満な胸に義明は目をそらしてしまう。別のことを考えよう。
そう、グルグランデとはなんだろうか。『匹』という単位を使ったから、おそらく生物なのだろう。でかい生物というと、象やキリン、クジラを想像するが、この異世界で日本の知識で補えることはできないだろう。グルグランデがどのくらいの大きさなのかわからないため、パッとイメージができないが、この研究所がものすごく広いということは火を見るよりあきらかだった。
「私の研究部門は施設の奥のほうにあるわ」
グルグランデのことを考えていると、アリ―は5m以上ある鉄格子の門の取っ手の部分に触れながら話す。すると、その手が触れている部分が光だすと、門がゴゴゴゴっと音を立てながら開いていく。この光景はこの世界に来て2度めだった。
ゆっくりと開いていく門を眺めていると、不意に腕が引っ張られる。アリ―は流行る気持ちが抑えきれなかったのか、門が開ききる前に門を通った。

「あ、アリ―所長、おはようございます!」
「アリ―さ……じゃなかった、アリ―所長。おはようございます!」
「アリ―所長! 3時の会議忘れないでくださいよ!」
「アリ―所長、今日もお綺麗ですね!」
広く、そして長い道を早足で進んでいくと、道行く道で声がかかる。この場所でも同じようにアリ―は人気だった。
一つ違うのが、誰もがアリ―のことを『様』呼びではなく、『所長』と呼ぶ。所長、つまりこの研究所で一番えらい人の称号。義明はまさか、アリ―がこの施設の所長だとは思わなかった。
「アリ―所長! その手を繋いでいる男はなんですか!」
どこからか怒りと焦りが混ざった声が義明の耳に入る。
「え、あ、ホントだ! 誰だ! あの男は!」
「まさか……アリ―所長の彼氏!」
「ばっかやろう! そんなわけあるか! きっと実験台のムルピーだよ!」
「実験台のムルピーか!」
「なんだ実験台のムルピーかぁ」
「そうだ、そうに違いない! アリ―所長は我らの女神だ! 彼氏など作らん! というか俺様がムルピーになりたい!」
「何いってんの! その役目はあたしよ!」
おそらくアリ―の耳に届いていることだろう。だが、そんなことはお構いなしに先へ、先へ進んでいく。アリ―は
義明はムルピーというはわからないが、おそらくモルモットと同じ意味だろう。
自らモルモットになりたがるなんてどうかしていると思いつつ、そして、そのモルモットと認識されている自分が、このさき何か良からぬことされるのではと、少し不安になる義明であった。



Code;Witch 9話



コンコンコンという音が聞こえ、義明の身体がビクっと動く。さきほどの音がドアをノックした音だと気づくのに、数秒かかった。
誰かがお越しにきたのか。
でも今は夏休み。休みの日に起こされることはめったにない。それにノックという優しい起こし方を妹や母がするわけがなかった。
それにしても今日はなぜかベッドから出る気が起きない。いつもなら少しででも目が覚めたらすぐに起きて、コーヒーを飲みにリビングにいくか、プログラミングをするかのどちらかだが、いつも以上にふかふかで、それでいてとても心休まる暖かさでベッドから出たいと微塵にも思わない。冬のこたつと似たような感じだ。まさか自分のベッドがこんなにも眠り心地がいいとは……。ほんの少し開きかけた目を、義明は再び閉じた。
コンコンコン。
コンコンコン。
コンコンコン。
ぼーっとする頭にこの音は響き、義明の左右の眉が中央にギュッとよる。
うるせぇ! っと言ってやりたいが、声をだすのも辛い。この最高に気持ちいことに気づいた自分のベッドをもっと堪能したい。黙っていれば諦めるだろうと、義明は我慢する。
コンコンコン。
「ヨシアキ……」
コンコンコン。
コンコンコン。
ノックと自分の名前が聞こえたことに気づく。
義明は片眼を半開きにして音がなる方を見る。
誰なんだ。
ため息をつきながら上半身を起こす。
そして、すぐに違和感に気づく。
「……あれ俺の部屋……じゃない?」
コンコンコン。
「よ、ヨシアキ。朝よ……起きてる?」
ドアの向こうから女性の声が聞こえる。その声はどこか申し訳なさそうな声のトーンであった。
母や妹、祖母でもない。こんなにきれいな声ではない。
「ヨシアキ、入るわね」
ガチャリと扉が開かれ、
ドアから現れたのは絶世の美女だった。
そして義明はその美女がアリーという名だということを思いだした。
「ああ、そっか……そっか……そうだった」
完全に目が覚めた。お目々はバッチリ開いていた。
昨日の出来事が早送りのように脳内で再生される。
開発中であったプログラム言語が、突然原因不明なバグが発生したこと、目を開けると、自分の祖母が実は異世界人だったこと。異世界の料理はうまかったこと。

そして、その料理で死にかけたことも。

昨晩はご馳走が義明に振る舞われた。
漫画に出てきそうな分厚いサラマンダーのステーキ。
光を当てれキラキラ光るエメラルドキャベツのサラダ。
香ばしい匂いと一個がおにぎり並にでかいエンペラーラビットの唐揚げ。
どれもインパクトが大きく、アッと驚かされるが、とくに驚かされたのは、鮮やかな紫色のデッドマッシュのアヒージョ。
デッドマッシュという名前も見た目も食べたら死んでしまいそうな料理をだされ、義明はアリ―に文句をいった。食べたら死ぬと……。
だが、アリ―はムーっと口を尖らせ「ちゃんと毒抜きしているから大丈夫」とまだ油がグツグツ煮だっているアヒージョを義明の口元に差し出した。
「絶対美味しいから、はい。あーん」
かわいい笑顔だ。
まさか、この異世界にて、しかもこんな美人に密かに憧れを抱いていた『あーん』をしてもらう日がやって来ようとは……。
嬉しい半面、食べたら死ぬのではないかという恐怖。
せっかく作ってくれたのだ。毒抜きしてると言っていた。だが、きのこの毒抜きって聞いたことが無い。
デッドマッシュのアヒージョを食べた。
恐る恐る噛みしめる。
一回、二回……。噛めば噛むほど、デッドマッシュのエキスが口の中にひろがっていく。
「美味しい……」
味は上品でまろやかで、香りが控えめでクセがなく、また食感がよく非常に食べやすい。
言ってしまえばとても美味しいマッシュルームだった。
「そう! 美味しいのよ!
デッドマッシュって高級食材なのよ? といっても調理するためには免許が必要なのだけどね。あ、私は当然持ってるわよ?」
「……フグみたいなものか」
「フグ?」
「毒を持った魚だよ。調理するために免許が必要なんだ」
「へぇ。魚を調理するのに免許が必要なんて変わってるわね」
毒キノコの免許には言われたくはなかった。少なくとも義明の知っている限りでは毒キノコを調理するなど聞いたことがなかった。
でも知らないだけで、実は存在するのかもしれない。すぐに調べたい欲求にかられるが、ここは日本じゃない。義明の部屋ではない。今ここにスマフォもパソコンもないのだ。

次に義明が食べたのが、サラマンダーのステーキだった。
義明は肉が大好きだった。ステーキはもちろん。焼肉、しゃぶしゃぶ、肉ずし。
サラマンダーのステーキはとても柔らかく、ナイフがスゥーっと入り込み、口の中に入れると、今度はスゥーッと溶けてなくなった。美味い肉は溶けるというけれど、本当に溶ける体験をするのは初めてであり、義明は感動した。義明が今まで食べたどのお肉より美味しかった。
義明はあっという間にステーキを完食した……。もう美味しい肉以外食べられないかも知れない。そんなどうでもいい不安を幸せそうに感じていたときだった。ステーキに満足している最中に、身体の内側からどんどん熱くなっていき、次第に汗が身体の毛穴という毛穴から、汗が溢れ出した。
尋常じゃない汗だ。まるで高温サウナにいるみたいだ。汗が滝のように流れる。
胸のあたりが熱い。身体の中が燃えているみたいだ。息も激しくなっていく。吐く息が炎のように熱い。
義明は汗でしみる瞳で、アリ―を見る。
意識がぼーっとするなか、アリーをみると、アリ―はなんだか慌てた様子であった。
「ご、ごめんなさい。サラマンダーのお肉ってエメラルドキャベツと一緒に食べないと、熱さで身体が焼けちゃう……のよ。
でもでも、少量だから、きっと大丈夫……たぶん。
と、とにかくエメラルドキャベツを食べて!」
エメラルドキャベツを義明の口元に無理やり押し込む。熱さでなかなか噛みしめる力がでない。汗と共に体力が流れ落ちているようだった。キャベツが硬いせんべいのような感覚だった。
「ヨシアキ! 飲んで! 飲み込んで!」
細かくちぎったキャベツを口の中に入れ、ようやく飲み込むことができた。
するとすぐに効果が現れ、どんどん身体の熱さが引いていく。
義明は深く呼吸をして、落ち着かせる。
「その……あまりにも美味しそうに食べるもんだから、その……嬉しくなっちゃって忘れちゃってて……」
「……」
アリ―が申し訳なさそうに、お冷をさしだし、義明はそれを一気に飲み干した。
ふぅっと息を吐く。
エンペラーラビットの唐揚げがあるが、手をつけられそうになく、異世界の食事は終了した。
義明は部屋に戻るとすぐさまベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。

部屋に入ってきたアリ―は申し訳なさそうな顔であった。。
「おはよー。アリ―」
「お、おはよー。……ヨシアキ、その……大丈夫?
体調はどう?」
「うん、大丈夫だよ」
「ほんと? なんともない?」
義明はニコっとして縦に首をふると、不安で落ち潰れそうなアリーの顔の緊張が解け、不安を身体から押し出すように、深く息を吐いた。
よく見るとアリーの目にはうっすらと隈ができていた。目も少し赤い。
義明はとても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
義明はアリーのきれいな青い瞳を汚してしまったような気がしてならなかった。
何か言わなければ。でも何を……。
何か言わなければならないと思えば思うほど、何も出てこない。
「アリー……」
「さ、準備して。朝ごはん用意してるから」
義明が何かを言う前にアリーは、この場から逃げるように、後ろを振り返りこの場から離れようとする。
言わなきゃいけない。
「アリー! 昨日はありがとう! すごく美味しかった!」
アリーは立ち止まって振り返った。
「今度は普通に食べても平気なものだから大丈夫よ」
アリーの笑顔はやはりいいもんだった。
 



SS とびだせ蟻たち




とびだせ蟻。
どこへでもとびだせる蟻。
地中でせっせと働いている蟻たち。
すべては女王様のため、生まれてくる子供のため。
働く蟻たちはせっせと働いている。
自分たちのことなんて二の次。だから色んな場所へ飛び出していける。
花の中、木の上、石の上、石の下。
ときには危険な敵の前にだって飛び出していける。
蜘蛛、カマキリ、蟻地獄、カエル……人間だってそうだ。
小さい蟻には敵がたくさん。
けど、蟻たちは決してひるまない。どんな敵であろうと、へっちゃら。
なぜならその敵がどんな凶悪で、どんなに勝てない敵であっても、その敵が女王にとって、素晴らしいものであるのなら、蟻たちは果敢に前に飛び出していける。一人で勝てなくても、みんなと協力すれば大丈夫。蟻たちは巧みなチームワークで、敵を倒す。そう簡単に、蟻たちのチームワークを崩せる奴らはいない。
そのチームワークで、数々の強敵を打ち破っている。
あの巨虫四天王を打ち倒すほどだ。
オオカマキリのデスサイズ、ジョロウグモのリリー、オオムカデの千鬼、そして……カブトムシの信玄。
世界の恐怖のどん底に陥れていた巨虫四天王を見事打ち破った蟻たち。
決して楽な戦いではなかった。多くの犠牲がでた。それでも蟻たち勇敢に四天王に立ち向かい、勝利し、愛しの女王へ四天王を献上した。
女王は闘った蟻たちを英雄として讃えたのだった。
これから先、どんな敵や苦難が待ち受けようと、蟻たちはきっと果敢に前に飛び出すだろう。
これからもずっと……。




Code;Witch 8話



台所に立つなんだか懐かしいと感じてしまう。まだ一日も経っていないのに、ここでの出来事はとても濃い物だった。1週間がぎゅっと一日に詰め込まれているようだった。
グツグツと沸騰する音が心地いい。
道具はこの世界でも同じであった。ペーパーフィルターもあり、ドリッパーもサーバーもドリップポットも。
引かれた豆をフィルターにいれ、お湯をそっと乗せるように注ぎ、粉全体に均一にお湯を含ませて数十秒放置する。
するとアリーが不思議な顔をしながら義明に訪ねた。
「いくらなんでもお湯すくなくない? 一人分もないと思うんだけど……」
「ああ、これは蒸らしてるんだよ」
「蒸らす?」
「うん。蒸らすことで、ほらコーヒーが膨らんでプツプツの泡がでてるだろ? コーヒーにはガスが含まれていて、蒸らすことでガスが放出されるんだよ。ガスを出すことで、コーヒーとお湯がなじみやすくなって、お湯の道ができるんだ。
コーヒーのおいしい成分を十分に出すための大切な工程なんだよ」
知らなかったと驚くアリー。
淹れ方の説明をするのもすごく久しぶりだった。あれはどっちが美味しく淹れられるかという勝負をしたときであった。勝敗は義明の圧勝。何が違うのか悔しそうにたずねてくる妹に、蒸らすことで味がよくなるんだよと、自慢気に説明したときのことを思い出し、義明はおかしくなった。
ニヤついている義明を見て、アリーは不思議そうに眉を寄せる。それに気づいた義明は慌ててニヤついている口を閉じ、再度集中する。
そろそろ頃合いだ。義明はお湯をゆっくりと円を書くように注ぐ。
「魔法薬をかき混ぜてるみたいね」
この入れ方がおかしいのか、アリーはくすくすと笑う。どうやらパフォーマンスをしていると思われているようだ。
だが、義明は気にせず注ぎ続ける。ここが重要なポイントなのだ。手元を疎かにしてはならない。義明は視線をコーヒー一点だけじっと見つめている。
あまりにも真剣な表情であったのでアリーは笑ったことに対して嫌悪感をいだいたのだろう、口を閉じた。すると、コーヒーの香りが漂いはじめた。
アリーはいつもより香りが強いことに気がつく。アリ―はいっぱいに鼻から息を吸い、香りを身体のなかに入れ込んだ。
「この香りだ……」
以前飲んだ、プロに入れてもらったというコーヒーを飲んだときに感じた香りだった。
「よし……できた。
さ、飲んでみてよ」
「……うん!」
アリーは台所に入り、すぐさまコーヒーを口につける。
するとアリーの目は大きく見開いた状態となった。その反応を見た義明に、笑みが溢れる。
「へへ、どう?」
義明は腕を組み、自慢げに尋ねた。
「……すごい……こんなに違うの?
義明、あなたすごいわ! 前に飲んだときよりも美味しいわ!」

それからうっとりしながら、ゆっくり味わいながら義明が淹れたコーヒーを飲んだ。飲み終わったときに「もう普通のは飲めない……どうしよ」と口をこぼした。
「よかったらまた淹れるよ。
こんなことぐらいしかできなから……せめてね」
「え、いいの!
それはすごく嬉しい! コーヒーってこんなに美味しいものなのね……」
「豆がいいからだよ。こんなに美味しいの、俺の世界にはないと思う」
「いや、これはあなたが上手いからよ。淹れる人間が上手くないとこんなに美味しくできないわ」
「……」
「ん? どうしたの?」
「いや、ばあちゃんにも同じこと言われたなぁって……つい最近」
「あら、フレンダ様も? ふふ、そうなのね」
アリ―は嬉しそうに口元を緩ませる。アリ―にとって、祖母は英雄。その英雄と同じ考えであることに嬉しくなってしまった。
「ねぇ、ヨシアキ。フレンダ様って普段どんなことしてらっしゃるの?」
「え、どんなこと? どんなこと……」
コーヒーを飲んで、バイクかっ飛ばして、酒飲んで……という状況がカメラのシャッターを切るようにパシャパシャと、義明の脳内に映し出された。
「お祖母様に聞いても、コーヒーを飲んで、箒かっ飛ばして、酒のんで、魔法ぶっ放して……ということしか話てくれないの。
……そんなことないと思うんだけど……ほら、きっと思い出すから話したくなかったんだと思うの。
当時は、フレンダ様は亡くなっていることになっていたから……。
でも私知りたいの! 数々の伝説を作り出した偉大な魔女の一人であるフレンダ様の普段の姿を……きっと日夜研究とかされていたのでしょうね」
「……コーヒー飲んで、バイクっていう乗り物かっ飛ばして、酒のんでたかな。
あ、魔法は一回も使ってないよ。もしかすると見えないところで使っていたかもしれないけど……」
「……もう! なんでヨシアキもそんなこというの! バイクって乗り物はよくわからないけど、さっき私が言ったこととほとんど一緒じゃない!
意地悪しないで教えてよぉ」
ムーっと目を細めて義明を睨みつける。睨みつけるといっても、恐怖を感じるとかそういったものがない。むしろ可愛らしい。
かわいいともっといじめたくなる。よく祖母そんなことを言って、義明や妹をよくからかったりしていた。今ならその気持がよくわかるかもしれない。
だが、今回は意地悪しているわけではなく、本当にそうなのだから、仕方がない。
「いや、だって……ほんとにそうだったんだよ」
「んー、まあいいわ。
いま研究している魔法が完成すれば、あなたの世界に言って直接フレンダ様にお会いして確かめるから」
アリーがふてくされながら、コーヒーをすする。
本気で怒っているわけではないことはわかるが、悪いことしたという罪悪感が出てしまう。
「あ、そうそう。 気になっていたんだけど……いま研究している魔法ってどんなものなの?」
するとアリーのムスッとしていた目が和らいでいく。
「気になる?」
アリーが「ふふーん」とイタズラっぽく笑う。
先程までの不機嫌そうな表情と打って変わって、なんだか嬉しそうだった。
「そりゃ……俺がこの世界に来た原因でもあるからね……」
「教えて上げてもいいけど……ヨシアキ、さっき意地悪したからなぁ」
アリーは自分の髪の先端をいじりながら言った。
「だから、さっきは嘘でも意地悪じゃなく、本当にそんな感じなんだって! 大体嘘ついてどうするんだよ!」
「んー……まぁそうなんだけど……。
でも信じられないのよねぇ。フレンダ様の偉大な功績を見ると、とてもそんな方には見えないのよ。だって精霊王を使役したのよ? 清らかで心優しい方でないとそんなの無理だわ。私以外の人もきっと同じことを言うはずよ」
「……そう言われてもなぁ」
「まぁ、でも今回の研究にはヨシアキの協力は必要不可欠。
どうせなら研究所で話して上げる。詳しい資料とかは全部研究所においてあるの」
「へぇ、研究所ってここから近いの?」
「歩いて30分程度かしら?
あ、今日はもういかないわよ? 流石に今日はいろんなことがありすぎて私も疲れたわ。
明日案内してあげる」

コーヒーを飲み終わった後、アリーは義明を客室に案内した。部屋の前につくと部屋に入る前に、「どんな部屋がいい?」と義明に訪ねた。義明はなぜいまさらそんなことを聞くのだろうかと思ったが、義明は「その部屋で快適に生活できるくらい?」と冗談で答えた。
ソレを聞いたアリーは、「なるほど、なるほど」とノックを10回、コンコンコンコンココンコンとリズムカルに叩いた。
義明はアリーが何をしているのか、(アリーもふざけているのか)、わからなかったが、とりあえずもしこの部屋に誰かいたら、「そんなに叩くなよ!」と怒りながらでてくることだろう。
リズミカルなノックが終わると、アリーは「こんなもんかな……」と言ったとき、ガチャとドアを開けた。
中に入り、「どう? こんな感じ?」とアリーは言った。
案内された部屋に入り、義明は驚いた。白い壁、高い天井、天井にぶら下がっているシャンデリア。ダブルベッド並の大きさのベッド。見るからにふかふかなクッションにソファー。
客室というより、それはもうホテルの一室だった。それもただのホテルの一部屋じゃない、いわゆるスイート・ルームだ。いや、スイート・ルームで止まったことなんて無いから、どんなものなのかわからない。
スイート・ルームはとにかく豪華……という漠然としたことしかわからなかった。だが、この部屋は義明にとって、間違いなくスイート・ルームだった。
義明の目にはこの部屋が金色に輝いて眩しく写り、しばらく口が開いたままだった。
「あら? 違ったかしら……あ! わかった!」
するとアリーは義明を連れて再び、部屋の外へでる。そして先程と同じようにノックを10回、リズミカルに行った。
そして部屋にはいると今度は、部屋全体の装飾が金色に輝く、それはまるで王室のような部屋へと変わっていた。
「どう? 今度はさっきより豪華なんじゃないかしら。隣国の王様の部屋を真似てみたんだけど、どう?」
「えっと……なにが起こったの?」
「え? ああ、そっか。
3年前に私が開発した部屋を自由に帰ることができる魔法よ。自分が一度訪れた部屋なら自由に変えることができるの。
といっても、なかなか高度な上に、魔力を相当食うから、私かお祖母様くらいしか使える魔女はいないのよね。
それで、どう?」
「……さっきの部屋でお願いします」