日別アーカイブ: 2018年2月3日

Code;Witch 16話

16



「ヨシアキ……怒ってる……かな」
「さぁ……あの方はこういうことで怒ったりしなさそうなお人ですけどね」
「そ……そうかな……」
結局、自分のヘマをやったことに気づいたあとも、研究所に残りシークレットコードの解析を続けた。続けなきゃいけない状況になってしまった。
アリ―がすぐに家に戻ろうとしたとき、一人の職員が早足でアリ―の元を訪れたのだ。
「所長! コードの1文目の解析ができました!」
その言葉を聞いてアリ―の頭の中は、そのことで頭がいっぱいになってしまった。アベルトの静止を聞かず、すぐに現場へと向かった。
そのあとは、誰がなんと言おうとアリ―の耳は誰の声も届かない『研究モード』に入ってしまった。この状態になると、数時間、下手したら3日は研究に没頭してしまうことがある。
今回はそんなことにはならなかったが、アリ―が煮詰まり研究室がでてきたときには、とっくに日は落ちていた。
「フレンダ様に感謝ですね。もしあそこまで超難解じゃなかったら、きっと所長、1年以上は外に出てきてませんよ、きっと」
「……うっ」
1文目を解読できたというので、もしかしたらこのまま順調に進むのではと思っていたが、さすがは英雄の作品。そのあとはまったくというほど進まなかったのだ。アリ―が研究室に入ってから進捗はゼロであった。
「きっとヨシアキ様はお腹空いていることでしょうねぇ。
一人さみしく……もしかしたら昨日あんなことがあったから怖くて、びくびくしてるのでは……」
「あ、アベルト!」
若干目が潤んでいるアリ―を見て、アベルトは言いすぎたと反省する。どうやらすごく反省しているようだった。アベルトが自分のことを棚にあげていることを突っ込んでこない。
「と、とにかく誤りましょう。私も一緒に謝りますから」
「……うん。ありがとう」

二人はアリ―宅へ入った。明かりはついていなかった。ヨシアキはリビングにいない。
「……やっぱり部屋で怯えて……」
アベルトも先程は違い、少し不安そうに声が漏れる。
それを聞いたアリ―の不安も上がり、急いでヨシアキの部屋へと向かう。アベルトもそれに続く。
「ヨシアキ! ただいま。一人にさせてごめんなさい」
数回ノックしてドア越しから声をかける。だが、ドアから返事はなかった。
眠っているのかもしれない。
「ヨシアキ……入るわね」
アリ―はそっとドアを開けるが、部屋はリビングと同じで真っ暗であった。
「……静かですね」
「……ええ」
部屋のあたりを見渡すが、そこにヨシアキの気配は感じられない。念のためベッドを確認するが、やはりそこにはヨシアキは寝ていなかった。そもそも、ベッドは開けたままであり、おそらく朝おきてそのままの状態なのだろう。
部屋いない。この事実がアリ―を更に不安にさせる。
「まさか……外にでちゃった?」
「それは……ないんと思いますよ? この家、魔法キーがかかってましたよね? 家を出たのなら、普通キーはかかっていないはずですから」
「確かに……そうね」
「転送系の装置とかっておいてますか?」
「いいえ、おいてないわ」
「なら、この家にいますよ! きっと隠れてるんですよ。
あ、そうだ。きっと私達が帰ってくるところを察知して、隠れて脅かそうとしてるんですよ!」
「そ、そうなのかしら……」
アリ―は顎に手を当て考え込む。確かにありえない話ではない。でもまだ慣れていないであろう、この生活でそんなおちゃめな事ができるか。
だが、家にいることはほぼ間違いない。
「ふふ、ヨシアキ様も意外とおちゃめなところあるんですね。
あ、所長。探知系の魔法を使うのは、なしですよ?
ヨシアキ様は魔法を使えないんですから、ずるになっちゃいます」
「えっと……と、とりあえず、荷物置いてくるわね」
すっかり盛り上がっているアベルトから逃げるようにこの場を離れる。ヨシアキがかくれんぼをしているとは、可能性としてはあるかもしれないが、かなり確率が低いとアリ―は考えていた。きっと何か別の理由で、ヨシアキは姿を見せない。
「……怒ってる……それしか考えられないのよね……」
なんて謝ろうか。
翻訳切手を貼っていなかったこと。貼っていないことに気づいてすぐに帰らなかったこと。帰るはずだった時間を大幅に遅れて帰ったこと。
どれもこれも理由を言っても、言い訳のようになり、嫌な気分になってくる。言い訳をいうほど、見苦しいものはない。
「もう素直に謝ろ……ん?」
書斎のドアが開いているのに気がつく。書斎といっても昔祖母のアマンダが使用していた場所であり、今ではただの本の物置となっている。
普段めったに開けることがない。もちろん、今朝も開けた記憶がない。
「……ヨシアキ?」
書斎に顔を覗き込ませる。するとそこには、ヨシアキがドアを背にして床に座っている。
ヨシアキの背をみてホッとする。それと同時に何をしているかという疑問が浮かび、すぐに声をかけることができなかった。
(ここにはほとんど魔導書しかないけど……)
よく見るとヨシアキの首が下をむいてウンウンと頷いている。そして頷いたあと、何やら用紙に書き込んでいる様子であった。
(まさか……魔導書をみているの?)
ここからでは遠い。場の雰囲気のせいなのか、アリ―は無意識に忍び足となり、ゆっくりヨシアキに近づく。近づく途中、部屋の床一面に用紙が散見していることに気づく。その用紙の一枚をとると、ところどころ読める文字はあるが、その大半は見たこともない文字がびっしりと書かれていた。
(これは……シークレットコードと同じ文字と似ている……。ヨシアキが書いたの?)
ますます気になってくるアリ―。
ついには背後にまで到達するも、ヨシアキはこちらに気づかない。
(すごい集中力……ん? 魔導書……あれって……古代魔術の魔導書!)
とても難解で、研究者でも音を上げてしまうほどの魔導書をヨシアキは読んでいる。アリ―でさえ、この本の完全に理解できずにいるものだ。
しかもこの様子を見る限り、何やらただ読むだけでなく、まるで解析しているようであった。
(一体どんなことを……)
アリ―はヨシアキの行動に釘付けになり、覗き込む。
だがここからでは見えそうで見えない。
アリ―は移動しようとした時だった。
「……二人で何やってるんですか?」
「キャっ!」
「うおっ!」

「ずっとここいたんですか?」
「うん。本ないかなって思っていろいろ探してたら、この部屋に……。
ごめんね、勝手に入って。すぐかたすよ」
「いや、それは……いいんだけど……」
アリ―は少し間をおき、部屋に散見している紙を見渡す。
「えっと……ヨシアキ。その本……読めるの?」
「んー……読める……というか、わかるって言ったほうがいいのかな」
「わかる……ですか?」
読めるとどう違うのだろうか。
「もちろん、文字はまったくと言うほど、理解できないんだけど。
なんていうんだろ。あ、このページなんだけど、これ……えっと魔術コードだっけ? このコードの構成が、オレの世界のプログラミングっていうものがあるんだけど、その構成とすっげー似てるんだよ。一部の記号とかも、ほんと形もほぼほぼ一緒だしね。それで、多分こういう意味じゃないかなって思ったらさ……」
ヨシアキは少し興奮した様子で、語りだす。そして何処か嬉しそうな表情であった。アリ―とアベルトはただただ、驚きしばらく目が見開いたままであった。