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Code;Witch 6話

 




 

塔から外へでるときに、マチルダから古い写真を一枚受け取った。
そこには、同じ顔をした魔女が二人写っていた。一人はマチルダであることがわかる。
今の姿と全く同じだが、写真からはすこしあどけない感じが伝わってくる。
もう一人は……義明が知る姿より若いが、それは確実に義明の祖母フレンダであった。
「これをおまえに渡しておく」
フレンダは言った。
「もし、お前が元の世界にもどったら、この写真を姉上に……おまえの祖母に渡してくれないか。
そして伝えてくれ、私の大好きないちごタルトを早く返せ……とな」

義明は塔を出てから、写真を見てはしまい、しまっては出しを何回も行っている。
「まだ、信じられない?」
アリーが優しく声をかける。
動揺して写真を見ている義明のことが心配になったのだろうか。アリーは心配そうな表情であった。
「まぁ、ね。正直、実は夢でしたって言われた方が、いいような気がするんだよね」
義明は自嘲気味に笑いながら言った。
「さっきアリーは、ばあちゃんは素晴らしい魔女って言ってたけど、そのなんだっけ? 災厄だっけ? それを倒した以外に何かしたの?」
「ええ、そうよ」
アリーがすこし嬉しそうな表情する。まるでよくぞ聞いてくれましたと、言わんばかりであった。ウズウズしているのがわかる。
義明は「あ……」とやってしまったかと、すこし後悔した。
たいていこういう顔する人は、つい話に熱が入りなかなか話が終わらない。今は気持ちが整理ついていない状態だから、少し遠慮したい気持ちだった。
「あなたのお祖母様……フレンダ・シュットガルト様は史上初めて 四大元素の精霊王と契約し、使役することができた魔女なの!
精霊王一体と契約するだけで、歴史に名を刻める程なのに、それを四体も。
精霊に好かれるエルフを差し置いてやってのけてしまうなんて……やろうと思ってやれるものではないわ!
さらに、災厄たちに効果がある武器を製造したり、水竜王を乗りこなしたり、数々の偉業を成し遂げた偉大な魔女の一人よ」
「そ、そうなんだ……」
興奮するアリー。身近な人物がすごく褒めれるのはなんだかくすぐったく感じる。
するとアリーは何やらひらめいたように、眉が上がり、声を漏らす。
「そうか……その可能性はあるわ
いや、でも結論を急ぐのは……でも可能性は大いにある……」
アリーは顎に手を当て、一人ブツブツ呟く。
「……どうしたの?」
「ヨシアキ、アナタは魔女フレンダ様の孫。アナタには少なからず魔女の血が流れている。
その魔女の血と私の魔法が反応してこちらの世界に来てしまった……かもしれないわ。
今回実験していたのは、時空と時空をつなぐ魔法……反応してもおかしくはない……。
それに、私が妹であるマチルダお祖母様の孫っていうのも、大いに関係があるかもしれない。
……共通する物があれば異次元をも超える? 次元魔法にはそういう性質が実はかくされていた?
んー、これは一から魔導文を組み立て直す必要がありそうね」
ひとりで考え込みをするアリ―に、義明はじっと見つめていた。その表情はどこか楽しそうであった。
自分もこうなのではと、ふいに脳裏をよぎった。
何かに熱中する楽しさは義明もよくわかる。
自身もプログラミングのこととなると、熱中しブツブツと独り言を言ったりしている。
そのせいで、よく母に御飯中は御飯に集中しなさいとか、妹に独り言がなんだか気味が悪いとか、言われていたが、もしかするとアリ―の今の状態みたいな感じなのかもしれない。
そう思うと、義明はなんだかおかしくなり、笑いがこみ上げてくる。笑っちゃうと失礼だ。そう思えば思うほど、笑いがこみ上げてくる。
すると、アリーが義明の行動に気づき、慌てつつも照れた表情をする。
「はっ! わ、わたしったらつい……。
ご、ごめんなさいね。
癖で……一人で考え込んじゃうのよ。気をつけてはいるのだけど……
気味悪かったよね……あはは」
照れくさそうに頬をかくアリーに、義明はドキッとしてしまう。
見た目は美人でクールなので、高値の花のような印象を受け、話しかけるのも恐れ多いと感じてしまうが、彼女の箒飛行中のイタズラ行為や、今のような自分の世界に入ってしまうようなところも、ギャップがあって可愛いと思う。
そして、照れている彼女はまた特別かわいく、目を奪われてしまう。
「よ……ヨシアキ?」
「はっ! ごめん!
いや、大丈夫、大丈夫!
実は俺も熱中しちゃうと独り言を言ったりして、よく母さんや妹にキモいっていわれているから」
「そう……そうなのね」
アリーは小さく良かったとホッと胸をなでおろす。
「ねぇ、アリー。アリーって街の人たちにすごく人気みたいだけど、もしかしてアリーも十の災厄を倒した英雄の一人だったりするの?」
義明はこの街に来てずっと思っていたことを、アリ―に聞く。すると、アリーは驚いたように目をみひらくと、すぐにだんだんとにらみつけるように義明を見る。
「……ちょっとヨシアキ。それ、わかってていってるの?」
「え?」
「お祖母様の話ちゃんと聞いてた?」
見るからに怒っているアリーに戸惑う義明。アリーはそんなことをお構いなしに義明に詰め寄り、圧をかける。
「十の災厄が倒されたのは、今から五十年も前の話よ!
私はまだ、二十二歳!」
アリ―は「失礼ね!」とそっぽを向き、同時に義明の顔がみるみる蒼白となっていく。
「ご、ごめん! いや、その……いや、だってすごい人気ぶりだったから、世界の一つや二つ、魔王の一人や二人倒してるのだと……それで魔王的な存在が十の災厄かと思って……その……ごめんなさい」
義明は深々と頭を下げながら言った。すると、「はあ」と息を吐くようなため息が聞こえた。
「ヨシアキ、顔あげて」
義明は恐る恐る顔をあげると、アリーは小さな咳払いをした。
「ま、まあ。そういうことなら仕方ないから許してあげるわ。
私は、お祖母様やフレンダ様のような英雄的な活躍はしてない。
十の災厄が倒されて、この世界は本当に平和になったの。災厄が現れる前もね、ひどい戦争が続いていたらしいわ。それこそ、魔族の王、魔王が全世界に戦争をしたりね。何世代にも渡って戦いは繰り広げた。
ある魔王が言ったらしいわ。
『この戦いはどちらが根絶するまで続く』と……。
でも十の災厄が現れたことによって、魔王の予言は外れた。十の災厄は人もエルフもドワーフも、竜族も魔族もこの世のすべてを破壊していった。
だから、みんな協力して十の災厄を倒し、この世界の全種族が争いをしてはならないと、硬い約束を結んだのよ。
その約束に一番力を入れてるのがこれが魔族だっていうんだから、わからないものよね」
「じゃあ、アリ―はどういう……」
「私がやったのは、十の災厄との戦いの後始末って言ったらいいかしら。
災厄の影響で絶滅寸前だった動物を魔法で繁殖させたり、腐敗した大地を元に戻したりしたわ」
義明がイメージする魔女の偉業というのは、封印された古代魔法の謎を解いたり、オリジナルの最強の魔法を開発というものだったため、拍子抜けのような感じがしてしまった。
それが顔にでていただのろう。義明の顔をみて、アリーがクスッと笑う。
「イメージと違ったでしょ?」
「え、いや……その……うん」
「そりゃ、昔は辺り一面を炎の海にする火炎魔法とか巨大な竜巻を発生させる魔法とか研究している魔女は多くいたわ。
でも、時代が変われば魔法も変わる。今必要なのはそういう魔法じゃないわ」
そう言ってアリーは微笑み、再び歩き初めた。
するとアリーは思い出したかのように、振り返り義明にいった。
「あ、そうそう。これから私の家にいきます」

 

 



 

Code;Witch 5話




目の前にいる女性を目にし、義明は驚きで目を見開いている。
「誰がばあちゃんだ!」
目の前にいる女性が激怒している。いきなり見知らぬ人間からばあちゃん呼ばわりされたら、それは誰でも怒るだろう。義明の言動はかなり失礼なものであった。
しかし、義明は叫ばずにはいられなかった。
いないはずの自分の祖母フレンダとほとんど容姿が変わらない人間が、目の前にいるのだから。
「いやいや! え? 何? なんでばあちゃんがここにいるの!」
「だから、誰がばあちゃんだ! 私はおまえなど知らん! 私の孫はアリ―だけだ!」
「え?」
その言葉に義明の興奮が冷めていく。すると、アリーがヨシアキの肩に手を優しく手を置く。
「ヨシアキ、あの方はアナタのお祖母様ではないわ。
ここスペルディアで最高責任者であり、私のお祖母様のマチルダ様よ」
「マチルダ……さん」
マチルダという名前を聞いて、興奮が一気に冷めていき、目の前の人が自分の知る祖母ではないということを、実感する。
そうだ。ここに祖母がいるわけがない。
「ご、ごめんなさい。あまりにも似ていたもので……」
「そんなに似ているの?」
「うん、双子かよってくらい似てる……けど、うちのばあちゃんの方が老けてる。
というか、あんなに若い人がアリ―のお祖母さんなの? 若過ぎない?」
見た目三十代前半、人によっては二十代後半という人もいるかもしれない。アリーのお姉さんと言われても納得していしまう。
「魔女は体内に魔力が豊富だからな。それが老化を防いでくれている」
そういうと、マチルダは懐からタバコを取り出し、指をパチンと鳴らし、火をつける。この世界の魔女は、杖なしで簡単な魔法を唱えることができるらしい。
ふうっと煙を吐き出すと、自席にもどり深く座った。
「改めまして、異世界人のヨシアキくん。私がスペルディアの最高責任者のマチルダ・ドルムントだ。
先程の無礼は、お前の若くて美しいであろうお祖母様に免じてゆるしてやる。
……それにしても、私を自分の祖母と間違うとは……。
くっくっく、そんなに似ていたのか?」
「はい、それはもうそっくりです。名前もなんだか似ていますね」
「ほう」
マチルダは興味深そうに机に右肘をついて、前のめりになる。
「美しく若く、そして私にそっくりで、名前も似ているのか。
ヨシアキ、お前のお祖母様のお名前はなんという?」
「古谷フレンダっていいます。フレンダとマチルダ、なんだか響きが似てませんか?」
「え?」
祖母の名前を聞いた途端に、アリーが声を漏らす。義明はアリ―を見ると、目を大きく見開き、とても驚いている様子であった。
マチルダの方見ても、何やら驚いた様子であった。
何か変なことを言ってしまったのだろうか?
マチルダは、動かずじっと義明を見ている。タバコの灰が机に落ちそうだ。
「それがお前の祖母の名か?」
「え、はいそうですけど……」
マチルダは口に手を当て、何やら考え込んでしまった。小声で何かブツブツ言っているようだった。
どうしたのだろうと、アリ―に視線を送ってみると、アリ―もなんだか落ち着かない様子であった。
視線が合うと、アリーは緊張した様子で口を開いた。
「ヨシアキ……アナタのお祖母様の旧姓って知ってる?」
「え、うん。シュットガルトっていう……」
「……お祖母様!」
アリーがマチルダの方を見る。
「それは……それは本当か?」
「え、は、はい」
「もう一度聞くが、私にそっくりか?」
「はい、そっくりです。あ、でもよくよく考えると髪の色も違いますし、肌もマチルダさんのほうがきれいだし……あ、口元にホクロがついてるんで」
「……そうか」
そう言って、マチルダは灰がすべて落ちてしまったタバコを灰皿に押し付ける。
そして空いた手で目を隠すように覆った。
「いきて……いきていたのか……」
絞り出すような声でマチルダは言った。
「別世界にいたとは……どうりで魔力が感じられないはずだ」
「あ、あの……どういうことですか?」
義明は不思議そうな顔でマチルダに尋ねる。
だが、彼女は答えることなくしばらくそのままだった。義明は手助けをもらおうと、アリ―の方をみる。
だが、アリ―もどこか心あらずな表情であった。
生きていた……それは祖母のことだろうか。
この反応からしてこの二人は、祖母のことを知っている。それもただ知っているだけではない。特にマチルダの反応は、長い間探し求めた親友、いや家族を見つけたようであった。
この人と祖母はほぼ瓜二つ。
義明はまさかと思いつつも、思い当たったことを尋ねた。
「あの……まさか、まさかと思うんですけど。俺のばあちゃんと姉妹関係……とかじゃないですよね?」
「……そのまさかよ」
答えたのはアリ―だった。
「アナタのお祖母様は、私のお祖母様と双子の姉妹関係。そしてフレンダ・シュットガルトは世界を崩壊させる災厄から世界を救った英雄の一人よ」

今から一五十年前。世界は災厄と称される化物たちに襲われていた。
『十の災厄』。それが、化物たちの呼び名だった。化物は全部で十体。
ある化物は大地を砂漠に変え、ある化物はあらゆる植物を食い荒らし、ある化物は世界のマナを食い荒らした。
化物たちとの戦いが始まってから一二〇年が経ち、ようやく『十の災厄』は倒された。

「私は、『十の災厄』の一体を倒すことができた。だが、姉は……相打ちという形になり、行方不明となっていた」
話が一区切りになったのか、マチルダは再度タバコを取り出し、火をつけ、煙を肺いっぱいに入れる。
「あんな化物相手にやられるわけがない、絶対に生きていると思っていたが……まさか別の世界にいるとはな……」
「ばあちゃんが……英雄」
義明は視線を下に落とす。話の内容を整理しようとしたのだが、先に信じられないという気持ちが先行し、整理できないでいた。
あの祖母が……別世界の住人で、世界を破滅に追いやる化物を倒した英雄?
「アナタのお祖母様は、それはそれは素晴らしい魔女だったのよ」
「え、魔女? ばあちゃん魔女だったの?」
アリ―の祖母であるマチルダの姉ということで、そうではないかと薄々感じてはいたが、他人から言われるとやはり驚いてしまう。
「なんだ。知らなかったのか?」
「えっと……魔法使ってるところなんて一度もなかったので」
「何? 魔法を一度も使っていない?」
マチルダの眉があがる。
「お祖母様、ヨシアキの世界では魔法がないようなのです。それに、ヨシアキの身体を見る限り、マナもおそらくないのかもしれません」
「ま……魔法がないだと」
マチルダは信じられないような顔をする。
「…そんな世界でよく姉上は生きていけたな……」
「結構楽しくしてますよ?」
昔はわからないが、自由に生活している。
今頃バイクでかっ飛ばしているころだろう。
「ああ、そうだろうな。姉上はそういうお人だ」
マチルダは懐かしむように言った。
きっと仲の良い姉妹だったのだろう。双子ということもあり、自分の半身みたいなものなのかもしれない。その半身がこことは違う世界で元気でいてくれている。それを聞くだけで、元気でいてくれる姿が目に浮かび、その元気なオーラが伝わってくる。
マチルダはタバコの火を消し、椅子から立ち上がる。
「アリ―」
「はい」
「我々の身内が、手違いとはいえ、会いに来てくれたのだ。丁重にもてなせよ」
「はい、お祖母様」
アリ―は一礼しながら返答する。
返答を聞き、マチルダは軽く頷く。
「ヨシアキ、もっとおまえの世界や姉上……お前の祖母の話を聞きたい。
とくに祖母の恋愛についてとかな。あの姉上をもらう男がいるとは……実に興味深い。
夕食でたっぷり聞かせておくれ」
マチルダは微笑みながら言った。その顔を見て、やはり姉妹だなと強く思った。
祖母がたまに魅せる優しい笑顔と重なったのだった。

 




いつもどおり

普段やらないことをするもんじゃない。
俺のじいさんの口癖だった。
本番で発揮することができる力は、練習でできたことの最大70%程度しか、本番では発揮されない。だから、嫌ってなるほど反復練習をするのだ。
俺はじいさんに言われたとおり、何度も練習、もとい勉強し今まですごくうまく言った。
高校受験、大学受験、そして公務員試験。どれも一発合格してきた。
よく一発で行けるねっとよく言われる。そんなときに言うのが、
「普段通りやるだけさ」
とちょっとキメ顔で言う。
普段通りにやれば、なんでもうまくいく。そのために何度も練習する。
だから今回受けたTOEICも満点近い点数が取れる自信があった。今回は満点行けるかもしれない。
俺はワクワク感にあふれて会場に入った。
まだ開始まで1時間。少し早く来てしまった。

「あれ? 長谷川くん?」

突然声がかかる。振り向くとそこには同じ職場で一番かわいい皆川麗華さんがいた。
俺はまさかの出会いに緊張が走った。

「み、皆川さん!」
「長谷川くんもTOEIC受けるんだ。私もなんだぁ」

彼女は少し照れくさそうに微笑んだ。
かわいい。すごくかわいい!

「それにしても早いね」
「い、いやその……」
「あ、わかった! 緊張して居ても立ってもいられなくて早く来ちゃったんでしょ?
ふふ、実は私も一緒。緊張しちゃうよねぇ」

かわいい。
理由は全然違うが、ここは彼女に合わせることにした。
そのほうが距離がぐっと縮まると思うからだ!

「そ、そうなんだよ! 緊張しちゃうよね」
「そんな長谷川くんに、とっておきがあるよ!
テストの名前をね、超絶頭がいい人の名前を書くんだよ!
そうしたらあたかもその人に乗り移ったかのように、自信と気合が入るんだって!」
「へー!」

そんなことをしなくても自信と気合は兼ね備えている。
だが、今回は憧れの皆川さんがいる。
もしかしたらこの後お茶とかしてさらなる距離が縮まるかもしれない。
LINEを交換しちゃって友達以上の関係になっちゃうかもしれない。
友達以上どころか家族になっちゃうかもしれない。
あれ、なんだか心臓がいつもより早い?

「それじゃ私、最後の復讐したいから行くね。
あ、この後ご飯でもいっしょに行かない? 長谷川くんともっと話たいなぁ……なんて」
「え、そ、それって……」
「じゃあとでね、ここでね」

なんだかその場から逃げるように彼女は行ってしまった。
まさか彼女のほうからお誘いがくるなんて思わなかった。
もっと話たいなんて行ってもらえるなんて思わなかった。
俺は自責に戻り、ずっと彼女のことを考えていた。どんなご飯にいこうか、どんな会話をしようか、今後のデートの話とかしちゃってもいいのだろうか。いろいろ考えいるうちにTOEIC開始の時刻になった。
俺は問題解こうとするが、全然問題が頭に入らない。英文をちょっと読んだあと、すぐ彼女のことを考えてしまう。そんなことをやっていたら、あっという間に開始から30分が経過していた。
ここままでは全問解けずという、史上最悪な結果になりかねない。
どうすればいいか考えていたら、再び彼女が脳裏に浮かび、言葉が思い浮かんだ。

「超絶頭のいい人の名前を書けばいいんだよ」

俺はわらにもすがる思いで、自分の名前をアインシュタインに変えた。
するとどうだろうか。
さっきまでとは嘘のように集中でき、自分でも驚くくらいのスピードで問題を解いていく。

(このペースなら30分の遅れも余裕で取り戻せる!)

そして俺は終了30分前にすべての問題に答えを記載できた。
もちろん見直しを含めてた。
俺はこの30分をこの後の彼女との食事について考えた。
するとあっという間に30分が過ぎてしまい、終了の合図がなった。
答案を回収していく。
俺は再度ざっと答案用紙眺めた。

「はう!?」

するとあることに気がついた。

「な、名前を治すの忘れてたぁ!」

俺は急いで治そうと消しゴムを手に取ったが、それと同時に試験管が答案を回収してしまった。

「ちょ! まっ……」

試験管はちらっとこちらをみたが、特に止まる様子はなくさっさと行ってしまった。

「や、やっちまった……」

終了後、彼女との待ち合わせ予定の場所に向かうとそこには彼女と見知らぬ男性がいた。

「あ、は、長谷川くん。そのごめんね、ちょっと別件の用事が入っちゃって……そのご飯はまた今度で。
それじゃね!」

そう行ってすぐに去っていった。
普段やらないことをするな。
じいさんの言いつけを守らなかった自分への、罰だったのかもしれない。

小説 | Code;Witch 4話


人生で飛行機を使わず、空を飛ぶという経験をするとは夢にも思わなかった。
箒が飛び立ったとき、義明は安全でないジェットコースターにでも乗った気分で、未知なる体験への期待と落ちたらどうしようという恐怖が義昭の心の中をぐるぐる駆け回っていた。
不安で無意識にアリーの肩を握っている手を強めてしまう。義明の不安が肩を通して伝わったのか、アリーは優しく「大丈夫よ」と言った……が、それでも不安は拭えず、義明は空返事しかできなかった。
義明の返答を聞いたアリーは、チラッと後ろを振り返る。すると、義明はオドオドした様子で下を見ていた。それを見たアリーは口元が緩み、口角が上がる。その表情には面白いものを見つけた子供のようだった。
アリ―は箒の進行方向を下に向け、急降下させた。
「え? あああああああああああああ!
……ああああああああああああああ!」
義明の叫び声があたり一体に響き渡る。最初は軽く脅かすつもりだったが、アリーはだんだんと楽しくなって、急降下と急上昇、縦方向に旋回、横方向に旋回と、ジェットコースターのように動き回った。
「落ちる! 落ちる! 落ちるあああああああああああ!」

通常飛行に戻ると義明は肩で息していた。
「はぁはぁはぁはぁ……し、死ぬかと……死ぬかと思った……」
叫びすぎて声が枯れ、喉が水を欲していた。
「あはははははっ! ごめんなさい、あまりにもびくびくしてもんだから、ついね。
こんないい反応する人久しぶりだわ。いい声だったわよ」
満身創痍な義明とは裏腹に、アリーは楽しそうに笑う。
さすがの義明も言わなければならない衝動にかられる。
「いい声だったじゃないよ! ホントに落ちるかと思ったわ!」
抗議する義明の目には涙が滲んでいた。
「今は私の魔力で覆ってるから落ちることはないわ。現に宙返りしても落ちてないでしょ?
それにしても……ふふふふ、義明の声って叫ぶと高い声を出すのね」
笑いをこらえようと、必死になっているのが後ろからでもひしひしと伝わってくる。
「……ばあちゃんそっくりだ」
義明はボソッと恨むような声で言った。
以前、祖母にバイクで似たようなことをやられたことを思い出し、アリ―の姿と祖母の姿が重なってみえる。怒り方といい、このいじり方といい……。
「あ、ヨシアキ。もうすぐでつくわ。ほら、あそこ」
アリーが義明に声をかけ、手を伸ばし、その場所を指し示す。
義明はその先を肩越しから覗くと、そこには天にそびえ建つ塔が見える。
そしてその塔を中心に町が広がっていた。
「あそこが、私の町、世界で1番魔法が発達している魔法都市『スペルディア』よ」

アリ―の故郷、スペルデイアに到着したそうそう、義明は息をのんだ。
目の前には、金髪の耳が長いエルフ、小柄だが体格のいいドワーフ、猫耳、うさぎ耳、犬耳を生やした獣人が普通にあるいている。
ハロウィンでの仮装やオタクたちのコスプレとはわけがちがった。
「すごい……本物のファンタジーだ」
思わず声が漏れてしまった。
義明は、自分が本当に別世界にいるのだと改めて実感する。
「さ、ついてきて」
あっけにとられている義明をよそに、アリーは歩を進めるので、義明は慌てて後ろについていく。
飛んでいかないのか……そう言おうとしたとき、どこからかアリ―を呼ぶ声が聞こえ、出かけた言葉を止める。
「ねーあれってアリ―様じゃない?」
義明は声をするほうに目をやると、義明と同じくらいの年齢の少女二人がまるで有名人でも見つけたかのような、反応をしている。どっちが声をかけるか相談しているのだろうか、肘でお互いを突っついている。
三角形のとんがり帽子とローブをまとっているのを見ると、アリ―と同じ魔女なのだろう。彼女たちの反応から、もしかするとアリーは魔女たちの間では有名人なのかもしれない。
義明はアリーを見る。
アリーは美人だ。絶世の美女とはまさに彼女のことをさすのだと、義明は思う。夢に出てきただけで見惚れてしまうほどなのだ。実物を見て惚れない訳がない。
いまだにもじもじしている魔女二人に気づいたアリーは、軽く彼女らに手をふる。
魔女二人はそれだけで、幸せ絶頂にまで達している表情であった。緊張もいくらかとれたのであろう、二人一緒にアリ―の方へ歩いてくる。アリーは歩をとめ、彼女らが来るのをまった。
「あ、アリ―さま、大ファンです! 握手してください!」
「サインもください!」
「ええ、よろこんで」
アリーは即答した。その顔は本当によろこんでいる顔であった。
彼女たちは自分たちにかけられた笑顔に、心を射抜かれたいるようすだった。そしてそれは隣にいる義明も同じだった。
こんな笑顔を出すのだ、きっと何されても許されるんじゃないかと思ってしまう。
握手とサインをもらった彼女らはさらに幸せな表情になり、アリーが立ち去ったあともしばらくアリーの背中を見つめていた。
気がつけば視線は彼女たちだけではなかった。この通りの住人たちは皆アリーをみているのだ。そして誰もがアリーに羨望の眼差しを向けていた。
「アリ―様だ」
「ホントだ、アリー様だ」
「相変わらずお美しい……」
「あ、アリ―ってあの……」
もしかすると、アリーはこの国の危機を救った英雄だったのかもしれない。
「着いたは、ここよ」
義明がアリーのことを考えている間に、どうやら目的地についたようだった。
そこは空中でみた高い塔だった。アリーは塔の大きな門に手をかざすと、かざした場所が光りだし、ゆっくりとゴゴゴゴゴという音を立てながら開かれる。
奥に進むと受付みたいなところがあり、アリーはそこに歩を進める。
「アリ―様。おかえりなさいませ」
受付のお姉さんらしき人物が座っていた椅子からたち、深々とお辞儀をした。
「会長はいるかしら?」
「はい、自室にいらっしゃいます」
「ありがとう」
アリーは視線で義明についてくるように促し、さきへ進む。

見るからに偉い人がいそうな扉で、扉の上には何やら文字が書かれたプレートがはめれられていた。
アリーはノックをすると「入れ」という声と共に扉を開けた。
「アリ―、よく来た。研究の成果の報告か?」
「いいえ、おばあさ……会長。まだ時間がかかるわ……でもヒントとなる人物を連れてきたの」
「ほぉ……その男がそうかい? ずいぶん変わった服を着ているねぇ」
「紹介するわ。彼はヨシアキ・フルヤ……別世界のって……どうしたのヨシアキ?」
「アリ―、そいつどうしたんだ? なんかすごく驚いているみたいだが……」
「……ば、ばあちゃん!」
義明は会長と言われた人物を指差しながら叫んだ。
「だれが……ばあちゃんだ!」
義明の祖母、フレンダに瓜二つだった。

 
 



小説 | Code;Witch 3話


 驚いて目を見開いた状態で、しばらく魔女を見つめていた。鼓動が早いのがわかる。
 薄い水色の髪は夢で見たときより、美しく輝いている。
 声も透き通るような声、白い肌。
 瞳も見ているだけで吸い込まれそうだった。
「ねぇ、あなた聞いているの? ……言葉が通じないのかしら?」
 そんな義明をみて美しい魔女は眉間にしわを寄せながら言った。
「ご、ごめん! その……びっくりしちゃって。ちゃんと通じてます。
 えっと……オレは義明。古谷義明」
 義明はハッと我に返り、あわてて言葉を返す。
「言葉通じるのね。よかった」
 魔女はホッとした様子で、微笑んだ。
「私はアリ―。アリ―・ドルムント。アリーでいいわ。 
 フルヤヨシアキ……変わった名前ね。ヨシアキが名?」
「あ、はい。そうです」
「ふーん……家名と名が逆なのね。
 ねぇ、ヨシアキ、あなたの出身はどこ?」
 いきなり下の名で呼ばれドキッとする。
 他人に、それもこんな美しい女性に下の名を呼ばれることなんて、この短い人生で今までなかった。
 だから、いろいろ考えてしまう。
 初対面でも下の名で呼び合う文化なのか。それとも彼女が外国人的なノリを好む人なのか。女性だけが下の名を呼んでいいのか……本当は夢なんじゃないかと。
 夢……?  
「えっと……そのまえに確認させてほしいんだど。
 これって夢?」
「……どういうこと?」
 アリーは首を掲げながら言った。
「い、いや……君を夢の中で、2回くらいみたから……今回もまた夢かなって思って……」
「夢で私に?」
 アリ―の問いに、義明は無言で頷く。
 すると、アリーは顎に手をあて、何かを考え始める。
「あの……えっと……」
「ああ、ごめんなさい……そうね。夢かどうかは頬をつねってみたらどう?」
 アリーはイタズラっぽく笑いながら言った。
 義明は「なるほど」と、頷き自分の頬を思いっきりつねる。それも爪を立ててつねるとても痛いやつだ。
 それを数十秒間やり、アリーはそれをみて「そこまでやるの?」とでも言いたげな様子で見ていた。
「い、痛い……夢じゃない……」
「そんなにつねらなくても……頬、真っ赤よ? 大丈夫?」
 アリーは義明の頬に手をかざす。
 突然な行動に義明はまたもドキッとし、思わず一歩後ろに下がってしまう。
 目線も思わず開いた胸元を見てしまう。
「動かないで」
「は……はい」
 すると、アリーの手から青白い光がぼんやりと放たれると、同時に頬の痛みが消えていく。
「はい、終わり」
「え、何……いまの」
 義明は困惑しながら言った。
「何って……治癒魔法を使ったのよ」
「ちゆ……まほう?」
 義明は痛みが引いた頬をさすりながら、その言葉の意味を考え込む。
「あら? 知らない?
 ヨシアキの国では魔法はないの? でも魔法がない国って、この世にあるのかしら……」
 魔法、それはまさかよくロールプレイングゲームでよく出てくる、炎を出したり、空を飛んだりする不思議な力のことだろうか。
「それでヨシアキ……あなたの出身は?」
「あ、えっと、日本です」
「……ニホン? 聞いたこと無いわ……ねぇ、そのニホンはどのへんにあるの?」
「ど、どのへんと言われても……」
 日本を訊いたことがないと言われ、義明は戸惑う。
 なんと答えればいいのだろうか……東アジア、極東の島国……。
 そもそもここがどこなのかわからないので、うまく説明しようがない。 
 すると、アリ―は指をパチンとならすと同時に何もないところから地図が出現する。
「この地図でいうとどのあたり?」
「え……いまのなに? 手品?」
「……手品? 神秘の術である魔法をあなた手品っていった?」
 アリ―は不機嫌な顔をする。
 声のトーンが1つ下がり、今度は違う意味でドキッとする。
 表情をみると見るからに怒りの表情が見て取れる。
「ご、ごめん」
 義明は慌てて謝罪をする。
「……まぁいいわ。それで、あなたの国……えっとニホン? それはどこにあるの?」
 アリ―が広げてくれた地図を見る。
 広げてくれた地図には見たこともない大陸が描かれていた。
「……あの、これってなんの地図?」
「なんのって……世界地図だけど」
「……おれの知ってる世界地図とぜんぜん違う」
 地図を見て、うすうす感じていたことが、明確になってくる。いや、魔法という言葉を聞いた時点で感じていた。
 ここは日本じゃないということを、ここは地球じゃないということを、ここは義明の知る世界ではないということを。
「オレ……別の世界からきちゃった……なんて……」
「……どうやらそうみたいね」
 アリ―は一人納得した様子で地図をしまう。
「ごめんなさい、ヨシアキ。
 おそらく、私の実験していた魔法のせいだわ」
 アリーは申し訳なさそうに言った。
「実験?」
「ええ、今開発している次元魔法の実験。
 魔術コードは組み上げたのだけど、これまで2回実験したのだけど、うまくいかなくて。
 ヨシアキ……あなた、さっき私の夢をみたっていったわね。
 おそらくそれは私の実験の影響だ思うわ。少なからず別世界とリンクされていたのね。でもどうして今日は成功を……コードはとくにいじってないのに……」
 アリーは再び顎に手を当てて考え込む。
「オレって……帰れるのかな?」
 義明は恐る恐る聞いた。
「……ごめんなさい。私もどうやってあなたを別世界からこちらに転送できたのか、全くわからないの。
 検証をしてみないとなんともいえないわ……」
 もしかしたら、帰れないかもしれない。
 いや、帰れたとしても数年先かもしれない。そう思ったときに義明は少なからずショックを受ける。
「とにかく、ここにいても何もできないわ。
 私の町へ行きましょう」 
 アリーは指をパチンとならす、今度は何もないところから箒が出現させた。その箒はふわふわと宙に浮いていた。
 アリ―はそれに跨ぎ、定番の魔女が箒にのる姿となる。
「やっぱり魔女は箒なのか」
 義明はぼそっと声を漏らす。
「あら、あなたの世界でも魔女はいるの?」
「いや、いないけど……魔女は箒に乗って飛ぶのはオレの世界でも定番だから物語とかでよく……」
「へぇ。世界が違くても、共通する部分はあるのね」
 アリーはちょっとうれしくなる。
「さ、いくわよ。乗って」
「う、うん」
 自転車を乗る感覚でいいのだろうか。先程アリーはそんな感覚で乗っているようだった。
 義明は恐る恐る箒に跨る。
 すると、跨いだ瞬間、身体がフワッと足の裏から持ち上げられたようになる。
「ウオッ」
「キャッ」
 予想もしてなかった感覚に義明は身体を右に、左に身体が揺れ、とっさに前方にいるアリ―に後ろから抱きしめてしまった。
 ……そして義明の左手はとても柔らかい部分にあたってしまう。
「ちょ、ちょっと変なところさわらないでよ……」
 アリーはジト目で抱きついている義明を見る。
「か、肩に捕まりなさいよ……」
「ご、ごめん!」
 義明は慌てて肩をつかむ。
「ほ……ほんとごめん」
「……べ、別にいいわ。わざとじゃないんだし。
 慣れないと誰でもそうよ。
 とにかく……いくわよ。しっかりつかまって」




小説 | Code;Witch 2話

2
 義明はまたあの魔女の夢を見ることができた。今まで同じ夢を見るという経験をしたことなかった義明にとって、この出来事は胸が熱くなった。
 またあの美しい魔女に会える。そう思うと胸が高まった。
 義明はあの魔女を探した。
(……いた!)
 すぐに見つかった。
 魔女は最初の夢と同じ、草原で一人で立っていた。
(今度こそ声をかけたい……)
 義明は一歩ずつ進み、彼女に近づいていく。
(近いようで……遠い!!)
 夢だからなのか、身体がふわふわした感じがして思うように進めない。
 もっと早く、目をさます前に……。
(あと、あともうちょい!)
 ようやく彼女に声が届くところまできた。
 義明は彼女に声をかけようとしたそのときだった。義明の頬に強い衝撃が走った。
「イッテ!? 何! 何!」
 強い衝撃により、義明は混乱する。
 目の前には朱菜が馬乗りとなっていた。
「な、何してんの……おまえ」
「お兄ちゃん、見て! これ見て!!」
 朱菜は虫かごを義明に突きつける。
 だが、義明はまだ頭がはっきりとしておらず焦点がなかなか合わない。
「これ見てって! これ! ほら!」
「え、なに?」
 義明は突きつけられた虫かごにようやく焦点があい、その中に入っている黒い物体をみる。
「……え、なにこれ? バッタ?」
「そう! バッタ! 見たこと無いバッタ! こんな大きくて黒くてトゲトゲしたの見たこと無くない! やばくない!」
 朱菜は興奮した声で言った。
 確かにこんなバッタは見たことがない。
 義明はぼんやりとした頭が徐々に覚めてきた。
「……これどこにいたの?」
「辰沼自然公園。
 昨日仕掛けた罠に入ってた」
「……まじか」
 義明も子供のころは辰沼自然公園で虫取りを楽しんでいた時期もあり、捕まえた虫、見た虫を図鑑で調べたりしていた。だからどんな虫がいるのか、概ね把握している。だがこんな虫は見たことがなかった。
「……こいつ外国産じゃないか? 飼ってた人が嫌になって逃したか、もしくは逃げられたか。
 さすがにこんな化物みたいなバッタ、日本にいないだろ」
 ネット動画でインドネシア産の世界最大のコオロギを見たときはその大きさに驚いたが、このバッタは色と体中のトゲトゲ、そしてバッタ特有の長い後ろ足で、それ以上にインパクトが大きい。
「あの超分厚い昆虫図鑑で調べてみたら?」
「もう調べたよ。でも載ってないの!」
 朱菜は目を見開いて言った。
「まじ? でもあれ最新の図鑑じゃないの?」
 1週間前に海外で出版された厚さ8cmの最新の昆虫図鑑上下巻。海外から取り寄せた朱菜のお気に入りの図鑑だ。
 ――わざわざ海外から取り寄せるのは祖母の影響かもしれない。
「そう! だからこれ絶対新種! 間違いない!」
「いやいや、さすがに新種は……」
 ないだろうと思いながら、義明は再度バッタを眉間にしわをよせながら見る。
 見れば見るほど、すごいバッタだ。まるでゲームの敵キャラにでも出てきそうなほどに、ビジュアルが気持ち悪い。虫が苦手な人がみたら、発狂してしまうことだろう。
 義明はじーっとバッタを見ていると、何やら口をモゴモゴさせていることに気がついた。そして、虫かごには他のバッタの足やら羽やらの残骸が散らかっていた。
「……なんか足とかあるけど、これって」
 若干顔を引きずって朱菜に聞いた。
「ああ、他のバッタとかセミとかコガネムシとか……まぁほかの虫と一緒に入れてたらさ……その、ね」
「……食べちゃった感じ?」
「えっと……うん。そんな感じ。やばくない? カマキリでもこんなに一気に虫食べないよね」
「……こいつとんでもない化物じゃん」
 残骸を見る限り5匹以上はいたはず。朱菜の反応からしてそう時間も経っていないのだろう。それに硬いコガネムシを食べてしまう食欲は凄まじい。
 この食欲と獰猛さだと虫にかぎらずどんな生物も食べてしまうのではないか。下手すると人間も餌とみなし、襲ってくるかもしれない。
 そう考えたとたん、背筋がゾッとした。
「な、なぁこいつ処分したほうがいいんじゃないか? 生態系をめっちゃ壊しそうなんだけど……」
「ダメ! これはもしかすると今世界中で起きているバッタ大量現象となにか関係あるかもしれない!」
「いやいやいやいや……関係ないって」
「もぉ! なんでお兄ちゃんがそんなことわかるの! だからモテないんだよ! バカ!」
「バカっておまえなぁ」
 いつものの妹の罵倒が始ったと義明は顔をしかめた。
 反論を言ってやりたいが、ここで反論を言うと話が長くなる上に、強引に押し切られてしまう。まだ眠気がある状態ではとても朱菜の暴言に太刀打ちできない……ここは速やかに話を終わらせるが一番の得策なのだ。
「ああ、もうわかったから、部屋もどれ。俺はもうちょい寝る……」
「あ、そうだった」
 朱菜は何か思い出したように言った。
「あたし、明日から龍之介とあゆみちゃんと幼馴染3人旅の夏旅行行ってくるから、私が帰ってくるまでこのバッタの世話をお願い、1週間くらい」
「はぁ!!」
 義明は閉じかけた目が開く。
「嫌だよ! なんでそんな化物バッタを俺が世話をしなきゃいけないんだよ! 怖ぇわ!」

「……お兄ちゃん、私がおばあちゃんのために買ってきたシュークリーム食べたよね……そのことについてまだあたし、謝ってもらってないんだけど。謝ってないから結構怒ってるんですけど、許して欲しかったらこのバッタをちゃんと世話して!
 じゃないとお兄ちゃんの恥ずかしい写真を経済雑誌の編集者に明け渡しちゃうから! 1枚1万で明け渡しちゃうからね!
 そして根も葉もないデマを編集者に言っちゃう! 1つのデマを1万で言っちゃうから! そしてそのお金で高級焼肉を食べちゃうんだから!」
 言い切ったあとに朱菜は義明をキッと睨みつける。
 義明は何も言えず、口をパクパクすることしかできずにいた。こういった妹は本当に実行する。以前それで義明は痛い目みている。
 すると朱菜は睨んでいた目を緩め、ニコッと笑った。それはまさしく勝利の笑みだった。
「はい、お願いね、お兄ちゃん。まぁこの様子からなんでも食べると思うから、楽だと思うよ。それじゃよろしく。んじゃね」
 お土産買ってくるからっと言って部屋から出ていった。
 義明は渡された虫かごを唖然としながら眺める。
 その中にいる気味の悪いバッタが義明を憐れむように、義明を見ていた。
「……そんな目でみるなよ」
 義明はどうやって飼育しようか、逃げ出そうとしないか、餌を入れたときに手を噛み付いて来ないかどうか、いつか妹に仕返ししてやるとか、いろいろ脳内を駆け巡ったが、とりあず虫かごをデスクに置いて、二度寝をすることにしたのだった。

「んー……はぁぁぁ」
 背もたれによりかかり、座りっぱなしで縮こまった身体を伸ばす。
 チラッと朱菜から無理やり預かされた虫かごに目をやる。そこには先程与えた餌のソーセージと煮干しをむしゃむしゃと食べている化物バッタがいる。
 朱菜からバッタを預かって3日目がたとうとしていた。無理やり預かされたときは、不安一色だったが、これといって問題はおきていない。
 かごの中を動き回ったり、跳ねたりせず、じーっとしている。むしろ大人しすぎて表紙抜けであった。
 初めて餌をやるときは餌が置かれる前に飛びかかってくかと思ったが、そんなことはなく静かに餌を待ち、置かれてから5~10分くらい餌を観察したあとに、ようやく食べ始めた。その行動は最初にイメージしていた獰猛で暴食な化物さは一切感じられなかった。
 生きた虫だと凶暴になるのかと思い、試しに虫を1匹入れてみたが、食べはしたがとても5匹以上の虫を食い荒らしたとは思えない普通の反応であった。
 だから預かってからとくに気にすることなく、オリジナルプログラミング言語『Witch』の開発に集中できた。むしろ煮詰まったときに、このバッタに餌をあたえたり、餌を食べている様子を眺めるのはちょっとした気分転換となっていた。
 しばらくすると先程与えた餌をすべて食べおわる。そのあとはいつものようにジッと動かず長い触覚を上下に動かしている。
「こいつ、ほんと動かないな。まぁ楽だからいいんだけど」
 指で虫かごを軽く叩くが、バッタはとくに気にする様子もなくじっとしている。
(そういえば……まだこいつについて調べてなかったな)
 ネットを開き、検索をかける。
 とりあえず、バッタの特徴を検索してみる。
(えっと……バッタ、黒い、トゲトゲ、でかいっと。
 ……おお、でたでた)
 サイトが一覧が表示され、義明は上から順に見てみる。
(『バッタ……インドでも大繁殖』、『バッタが食料難を助ける?』……『突然変異種?それとも新種か?』お! これだ!)
 それらしいタイトルを見つけクリックすると、有名ニュースサイトのページに飛んだ。
(えっと……『各国で異形なバッタが数匹発見される。新種か突然変異なのか、また今起こっている世界規模の蝗害と関係あるか現在調査中』……か。
 朱菜が言ってたこと、あながち間違ってなかったってことか?)
 記事には写真も掲載されており、それぞれの国で見つかったバッタは色が真っ黒という点以外は姿形が違っていた。
 ある国では細長い身体のもの、ある国では頭の先端に角があるもの、またある国ではすべての足が異様に長いものなど、様々であった。
(発見された国によって形が違うのか……新種というより環境汚染とかの突然変異のほうがしっくりくるな)
 義明はそれからしばらくネットで調べてみたが、それ以上の情報が得られなかった。
(さて、続き続きっと……)
 一通り義明は再び作業を再開を始めた。
(さてと……さっき組み上げたところを試してみますか。
 ……デバックモードで実行……ん? あれ?)
 実行ボタンを押したとき、エラーが表示される。
 エラーの内容を確認すると、コードのスペルが間違っているという内容であった。それも、随分前に書いた部分が間違っているという。
 エラーを見た義明は渋い顔をする。先程書いたコードの内容が間違っているというのはよくやることだが、随分前に書いたコードが違うなど今更そんなミスを起こすわけがない。そう思い、義明は前に確認するためにコードをもどる。
「寝ぼけて変なところ消しちゃったのかな……はぁ! ウッソ、ありえねぇ!」
 思わず大きな声を上げてしまう。
 一箇所、二箇所間違えてるどころの問題ではなかった。不自然な箇所に空白があり、素人が見ても、ひと目で何処が間違っているか一目瞭然であった。
「な、なんでこんな……」
 とても不自然な現象に動揺する。
「え、まさかクラッキング(ネットワークに繋がれたシステムへ不正に侵入したり、コンピュータシステムを破壊・改竄する行為)された? それともコンピュータウイルス? どっちにしろやばい……」
 義明はすぐさま原因を調べるためにセキュリティソフトの起動しコンピューターウイルスの確認と、不正に侵入されたかどうか調べる。
 義明のコンピューターは万全なものであった。独自が開発したセキュリティは市販されているものより数倍性能がいいものであった。
「……ウイルス……なし、侵入された形跡……なし」
 案の定、何の形跡もなかった。
「とりあえず……消えたコードの復元って、えええええ!」
 プログラミングコードにもどると、どんどん書いていたプログラムが消えていく。
「うっそ! まじかよ! なんで! え! どうやって! あああクソ! 止まんない!!」
 義明は急いでLANケーブルを抜くが、効果がない。コンピューターを強制終了させようとしたが……。
「え、なんで! 強制終了できない!
 ああああ、もう! なんで!」
 だが、なんとか食い止めようとするも、どんどん消されていき、ついに全体の四分の一が消されてしまった。
「ふざけんなっ!」
 どうすることもできない。義明は苛立ちのあまり、机を強くたたく。
 すると、いきよいよく消されていた が止まった。
「と、止まった……っ!」
 義明はすぐにコンピュータを強制終了させる。
 今度は無事に強制終了させることができた。
「はぁぁぁぁぁ……オレのセキュリティを軽々突破するやつがいるなんて……いったいだれだよぉ……」
 義明は頭を抱えて、うなだれる。
 コンピューターを強制終了を止めるなど聞いたこともなかった。
「と、とにかく復旧とセキュリティの強化を……ん?」
 するとコンピューターのディスプレイが自動的に起動され、同時に画面から見たこともない文字が表示されてる。
「え……なにこれ……何語?」
 義明は表示される文字を見るが何が書いてあるかわからなかったが、文の構成にどこか見覚えがあった。
「これって……プログラム? でもこんな言語みたこと……」
 しばらくすると文字表示が終わる。
 するとディスプレイが突如激しい光が放たれる。
「うわっ!」
 義明はとっさに腕で目を覆う。
 光はしばらく放たれ続けた。

 ――――――――――――――――
 ――――――――――
 ――――――
 ――――
 ――

 どれくらい目を瞑っていただろうか。もう光は収まっているのだろうか。
 義明は恐る恐る目を開けると、そこには見覚えがある風景が目の前に広がった。
「え、ここって……」
 夢で見たあの草原であった。
「また同じ夢をみたのか?」
 それにしては妙に現実感がある。あの時は身体ふわふわと地面に足がついていないような感じがしたが、今回はちゃんと地面に足がついている感じがした。
「ねー、あなた……何者?」
「っ!」
 後ろから声が聞こえ、義明はとっさに振り向く。
「え……えっ!」
「何、あなた。人の顔を見るなり驚いて。失礼ね。
 ……それよりあなた、何者? どこからきたの?」
 そこには夢でみた魔女が義明に話しかけていた。




小説 | Code;Witch 1話


義明は目をさます。身体を伸ばそうと床に寝そべったら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
そして義明は夢を見ていたことを思い出す。その夢は義明にとって、とてもファンタジーな夢だった。
一人の魔女の格好をした女性が草原の真ん中に立って空を見上げ、風が優しく吹くと薄い水色の髪とマントがなびいていた。
風になびかれる彼女の姿は美しく、義明はその魔女に見惚れていた。もっと近くで彼女を見ていたい、そう思って近づくと彼女が手に持っていた杖を手に掲げた。同時に何かを口ずさんでいるようだった。
何をしゃべっているのだろう。
義明は喋っている言葉ききたくてさらに近づいていく。とその時、魔女は掲げた杖を振り下ろした……。
……と、そこで義明は目を覚ましてしまった。
目を覚ました義明は夢の内容を思い出しながらなんで起きちゃったのか、いいところだったのにとすごい悔しさが溢れ出た。
もう一度同じ夢を見たい、そう思って再び目をつぶろうとしたとき、義明は慌ててスマフォを手に取り時間を見る。
「よかった……15分しかたってない」
そんなに時間が経過していないことにホッと胸を息を吐く。
とは言っても、身体は重く、瞼も油断したら完全に閉じきってしまう。今度寝てしまったら15分では済まないだろう。
それに寝てもおそらく同じ夢は義明の経験上見ないことはわかっていた。
「……ねみ」
高校2年の夏。夏休みはいって1週間が経過した。
夏休みに入ってから一日中プログラミングをしている。5歳のころにゲームをやり始め、その根幹にあるプログラミングに興味をもってから、父に頼み込んでパソコンを買ってもらい、プログラミングに触れるようになった。
わずか10歳ながらプロのセミナーにも積極的に参加。お小遣いをためてはプログラミングの本を買いあさり、12歳のなるとゲームを一人で開発し、数々のコンテストに入賞、経済誌などにもインタビュー記事が載ったりするなど、一躍有名となり、ついには天才プログラマーなんて呼ばれるまでもなった。
中学生になると企業から開発の依頼なども受けるようになり、この年齢にしてはそこそこの金持ちとなった。
高校に上がった今は、企業からの仕事の依頼はストップし、長年の夢であった自分独自のプログラミング言語を開発するため、日夜作業をしている。
そんなプログラム大好き義明にとって、一日中プログラミングすることは幸せなことであった……が、三日連続の徹夜は流石に身体に応えたようであり、書きかけのプログラミングを見ると最後の方は間違いだらけだった。
「んんんんっ……ばああああ……」
身体を伸び切るところまで伸ばし、一気に息をはいて力を抜く。
このまま進めて効率が悪い。そう思った義明は一息入れようと考えた途端に、大好きなコーヒーが飲みたくなった。
「……コーヒー……飲むかぁぁぁ」
まるで自分自信に言い聞かせるかのようにぼやきながら、義明は重い体を引きずりドアを開けた。
部屋を出ると廊下の小さい窓から外の薄っすらとした光が差し込み、うっすら青い。どうやらまだ誰も起きていないのだろう、かなり静かで、チュンチュンと外から雀の鳴き声がよく聞こえる。
義明は大きな音を立てないように、慎重に廊下と階段を渡っていった。
リビングにつくと、案の定だれも起きた形跡がない。
コーヒー豆専用棚から豆をとりだし、手動のコーヒーミルで豆を挽く。すると、コーヒーミルからほのかな香りがただよってきた。
「ん〜……いい香りだぁ」
このコーヒー豆は祖母がわざわざ海外から取り寄せたコーヒーだ。コーヒーを淹れてあともしばらく経っても香りは消えず、また上手に淹れることで味も損なわれず、美味しい味を長く楽しむことができる。
挽いた豆をペーパーフィルターに入れ、お湯を注ぐ。その際に義明は少し集中する。
古谷家のうまいコーヒーの淹れる秘訣はこのお湯の注ぎ方が一番重要であり、義明もこの注ぎ方を習得するのに苦労した。
「完璧ッ」
注ぎ終わりあとはじっくりと旨味を凝縮したコーヒーがサーバーに抽出されるのを待つだけ。
ポタポタポタと抽出される音が静かなリビングに響き、心地が良よく、また挽いたときは違うまろやかな香りが漂う。この時が、義明が一番リラックスできる時間帯だった。
お湯を注いでから数分で、抽出が終わり、コーヒーを義明専用のマグカップに注ぎ、口に含む。
「ふう……うっまいなあ。さすがオレ」
言葉と共に疲れが外に押し出されるようだった。
コーヒーの苦味が眠気を覚ましていき、だんだんと頭が冴えてきた。
(にしても……あの夢はなかなか幻想的だったなぁ)
改めて見ていた夢を思い出す。義明があのような夢を見るのは初めてかもしれない。
そもそも義明は夢をあまりみないため、今回の夢はかなり新鮮であった。
「……腹減ってきた」
脳が冴えてきたと同時に、腹の虫も眠気から冷め、やかましく音を上げ始めた。
そういえば、夕飯を食べて8時間以上は経過する。
「なんかないかな……ん? このシュークリーム誰のだ?」
冷蔵庫を開けるとシュークリームが1個、目立つところにおいてあった。
袋には「プレミアム」といロゴと、ちょっと高級感があるデザインとなっている。しかし、よくよく見るとコンビニのマークが小さくプリントされていた。
「へぇ、あのコンビニこういうの出してのか……。
誰のだ?……朱菜の? 母さん? 父さん……は甘いの嫌い……じゃ、ばあちゃん? いや、ないな」
義明は数秒シュークリームを手に取り眺めていた。
「いいや、食べちゃお」
義明はウキウキしながら、袋を開け、口に頬張る。
「ん! うんまっ」
義明は想像以上の味に驚く。
一口噛むとクリームが口から溢れるほど詰まっており、口の中いっぱいにクリームが広がった。
プレミアムと豪語しているだけはあり、この間母が都内のデパートで買ってきたシュークリームと遜色ない味であった。
「うん、いいね。合う合う」
一口、二口、そしてコーヒー。
シュークリームはあっという間に食べてしまった。
コーヒーも飲み終わり、頭もだいぶスッキリしてきた。
義明はシュークリームの袋を丸めて、部屋の隅に置いてあるゴミ箱めがけて投げる。袋はゴミ箱の縁に弾かれる。
「……はぁ……」
義明は面倒臭いと感じながら、外した袋を入れようと立ち上がった。
すると、廊下から足音が聞こえてきた。
「いい匂いがすると思ったら、義明、いいものを飲んでるじゃないか。あたしにもおくれ」
「ん、ばあちゃん。あれ? もしかして起こしちゃった?」
「年寄りは朝が早いんだよ」
祖母のフレンダがコーヒーの香りにつられ、リビングにやってきた。
古谷フレンダ。旧姓はシュットガルト。義明の祖母である。名字からしておそらくドイツ人。というのも、どの国か聞くと「たぶん、ドイツ」というすごく曖昧なことをいうので、よくわかっていない。
今年で82歳になるフレンダは年齢に反して、ものすごく若くみえる。肌のつやや、姿勢、プロポーション。どれをとっても82歳に見えず、一体何回整形をくり返したのだろうと思いたくなる。……本人は整形など一度もやったことないというが、整形なしでここまで美を保てるものだろうか。名字といい、若さといい、祖母フレンダは古谷家の謎である。
趣味はツーリングという82歳にそぐわない。この間もハーレーに乗って埼玉から京都まで行ってきたらしい。
義明はマグカップをもう一つ用意し、コーヒーを注ぎ、祖母に出した。
「やっぱりうまいねぇ、義明の煎れるコーヒーは。
この間行った京都で飲んだコーヒーもうまかったけど、義明のにはかなわないねぇ」
「へへ、サンキューばあちゃん。
ま、ばあちゃんが買ってくれる豆がいいからっていうのもあるんだけどね」
本場南米から直送してるくらいだ。
この間はわざわざ南米に行って、自分で味を確かめに行ったほどであり、コーヒーの輸入会社でも立ち上げるのかと家族全員で思った。
「いくら豆が良くたって、煎れる人間が下手くそだったらここまでうまくならんだろうよ。
このあたしが言うんだ、もっと誇りに思いな。あ、おかわりもらえるかい?」
「へへ、あいよ」
「んー、甘いものがほしくなるねえ。
あ、そうだそうだ」
フレンダは何か思い出したのか立ち上がり、冷蔵庫の前にきた。
冷蔵庫を開け、ガサガサと冷蔵庫の中を漁る。義明はどきりとした。
「……なに探してるの?」
「いやね、朱菜にもらったシュークリームがあったんだけどね。見当たらないんだよ」
「えっ」
「義明、あんた知らないかい?」
「シュークリームってコンビニの?」
「そうそう、コンビニの。
……おかしいねぇ。確かここにおいたはずなんだけど」
義明はまずいと思った。まさか一番無いと思ってた祖母が先程食べたシュークリームの所有者だとは思わなかった。
義明の背中に嫌な汗が流れる。このあとなんと言い訳しようか必死に考えていた。
知らないと言い切るか、逃げるように立ち去るか。……いやそんなことをしたらあとが怖い。祖母は基本的に怒ることはなく、優しい人だが、一度怒るととてつもなく怖い。ここは素直に食べてしまったことを告白したほうがいい。それも祖母に問い詰められる前に言わなければ。
「義明……この袋はなんだい?」
祖母は先程義明が投げた袋を見つける。
「え!? え、えっと」
「まさか……食べたのかい。自分の物じゃないのに食べたのかい?」
「……は、はい」
「はぁ」
祖母は深い溜め息を吐いた。
「ご、ごめんなさい、ばあちゃん。ばあちゃんのだと知らなくて……」
「義明……なにそんなに怯えてるんだい? 確かに勝手に食べことは行けないが、コンビニのシュークリームくらいで怒ったりしないわさ」
「えっ」
その一言で義明はほっとし、気が緩む。
「うん、ホントごめん。いや、コンビニのだから後で勝ってくればいいかなって思って……」
「……ふーん」
祖母は深く2回ほどうなずく。
その行動をみた義明は、違和感を覚える。
「そうかい、ならお湯が沸騰する前に買ってきてもらおうかね」
「え? い、いま?」
「当たり前だろ。おまえ、どうせ後で買えばいいやって思ったんだろ? それじゃ食べたんだから今買ってこないきゃいけないね」
「えっと……今は……おれ、徹夜明けだし……これから作業再開しようと」
「義明……つべこべ言わず、早く買ってきな」
笑ってはいるが、義明の目には怒っているようにしか見えない祖母の姿があった。
こうなってしまったいくらなんと言おうと、祖母を説得させるなど不可能に近い。
「は……はい、いってきます」

財布と軽い上衣を羽織って限界に向かい、そしてドアを開けた瞬間、日差しが義明の目を刺激する。
「ううう、まぶし……」
徹夜明けの義明にとってこの日差しは堪える、眉をゆがませる。
コンビニまで歩いて10分。普段なら気分転換で歩いて向かうが、今は祖母にいち早くシュークリームを届けないとあとが怖い。義明は愛用のクロスバイクにまたがり、ペダルを漕いだ。
自転車を漕ぐと朝の涼しい風が身体にあたり、さっきまでの憂鬱な気持ちが現れるようであった。
こんなに気持ちいなら早朝サイクリングをしてみよう、そう考えたときだった。
「ぶはっ!!」
自転車で走行中に、顔に何かあたり、義明は慌てて急停車する。
「なになになになに!」
義明は顔にあたったものを手で払う。
すると、手に何かあたり払った衝撃でその物体が地面に叩きつけられる音がした。
義明は音がした方に視線を向ける。
「ば、バッタ?」
視線の先には体長5cmくらいのトノサマバッタが地面に横たわっていた。
義明はバッタに近づき、指先で突っついてみたが、地面の衝撃が強かったのだろうか、トノサマバッタはピクリとも動かない。
「ああああ、もう……死んじゃったか……」
殺すつもりはなかったと、義明は心の中で懺悔した。
義明は虫は嫌いではなく、むしろ好きなほうであったため、やってしまったという後悔が押しよせた。
「……いや、でも。ビビるでしょ。顔にいきなりへばりつかれたらびびるっしょ。
うん、不可抗力。だから許してくれぇ」
それでも罪悪感があり、義明はせめてトノサマバッタの死骸を雑草が覆い茂っているところに置いた。

コンビニでシュークリームを無事に購入することができ、家に帰宅する。
「ただいまぁ」
「あ、お兄ちゃんおかえり」
玄関のドアを開けると、妹の朱菜が靴のひもを結んでいた。
「どっか行くのか?」
「うん、龍之介とあゆみちゃんと虫取り」
「虫取りって……」
仮にも来年中学になる女の子が虫取りとは……と心の中でぼやく。
ほかにいろいろ題材はあっただろう。
朱菜は兄から見てもかなりの美少女だ。祖母の血をしっかり受け継いでおり、日本人のいいところは残ししつつ、それでいて日本人で足りないものを祖母の西洋のいいところで補っている。つまり完璧美少女だ。
そんな美少女が虫取りあみをもっているのはなんとも違和感がある。
幼馴染の龍之介はともかく、女の子のあゆみちゃんは絶対に朱菜に無理やり強制参加させられたに違いない。
「ちょっと……なにその目。子供っぽいって思ってるでしょ。
言っておくけど、この自由研究は結構大掛かりなの」
「へー」
「……ほら最近バッタが世界中で大繁殖してるじゃない? 日本でもひどいところでは農作物が食い荒らされてるって」
「え? そうなん?」
「ちょっとニュースぐらいみなよ。
それでこの自然豊かな辰沼自然公園ではどのくらい影響しているのか、生態系は崩れてないのか、どのくらいバッタが増えてるのか。罠を張ったり、実際につかまえて見たり、草木の減少具合をみてる。
だから、お兄ちゃんが昔やった『辰沼自然公園にいる生物』とかいうただ生き物を捕まえて写真を貼っつけるような安っぽいものじゃないの。
あと、勝手におばあちゃんのシュークリームを食べない!
せっかくおばあちゃんのために買ってきたのに! もう! あとでちゃんと謝って! 私に!」
そう言って、朱菜は玄関を出ていった。
いいたことを言うと朱菜は相手の話を聞かず、満足して話を終えてしまう。それでよく学校でガキ大将的な存在と口論しているらしい。朱菜の全勝とのこと。
義明は靴を脱ぎ、祖母がいるであろうリビングに向かう。
「ばあちゃん、いるー?」
リビングのドアを開けながら声をかける。
「あれ……いない。ん?」
義明はテーブルにおいてあるメモ用紙を手に取る。
それを見た義明は眉を歪ませる。
「……食べるっていうてたやん」
そのメモには祖母が残したメモであり、「ひとっ走り行ってくる、例のぶつは冷蔵庫へ」と書かれてあった。
「……はぁ」
流石に文句を言ってやろうと思い、携帯をとりだすも、今頃バイクで颯爽と道路を走っていて姿が脳裏に浮かび、そっと携帯をしまう。
「……はぁ……ふあああああ」
義明は深い溜息と大きいあくびをして、自室に向かう。
部屋に戻ると、急激に眠気が襲ってきたのだった。