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SS 例の物




「お客さん……あんたの熱意に負けたよ。
仕方ない300万で売るよ」
「あ、ありがとうでげす!
恩に着るでげす!」
「……お客さん、いいかげんその『でげす』やめない?
そのルックスでその語尾は似合ってないよ?」
「……これで素でげすよ?」
「まじかよ。
まぁいいや。はい、例のもの。
ほんとに大事にしてくれよ!
こんな格安で手に入るなんて、うち以外にないからね!
それと、今回だけだからね!」
「ぐふふ、肝に命じておくでげす!
ありがとうでげす!」
私はやっと手に入れた。
これを手に入れるために私はどんなに苦労したか。
300万なんて安いもんだ。
最低価格800万で売られている品物だからな。
これで当分は生きて行ける。

私は精一杯のお辞儀をし、店をでた。
出るときに見えた店員の顔の苦笑いがちらっと見えた。
私は店をでて精一杯、深呼吸をした。心を落ち着かせるためだ。でないと嬉しさのあまり、でかい声で叫んでしまいそうになる。
私は300万で購入したものを、改めて袋から取り出し見つめた。
ゴクリとツバを飲み込む。よくアニメとかで『ゴクリ』と擬音が使われるが、本当に緊張状態で飲み込んだツバは『ゴクリ』と音がすると初めて実感した。
「……ぐふ、ぐふふふふふ」
自然に笑いがこみ上げてくる。抑えようにも抑えられない。
私はそれほどのものを手に入れたのだ。

「あれ、吉田くん?」
「にょわーーーーー!」
不意に声がかかり、肩が、目が、肺が、心臓が同時に跳ねあがった。だが、驚いて例の物を落とすなんてそんなヘマはしない。そんなことをするのはアニメのヘタレ主人公か、ドジっ子か、ただの馬鹿だ。
「だ、大丈夫?」
「は、早川氏……お、驚かさないでほしいでげす」
「え……っとわたし、別に驚かしたつもりは……ごめんね」
「うむ、いいでげす。こいつが無事だったので……」
「ん? なーにそれ?」
早川氏はちょっと首を傾けて、私の手にもつ物に視線を移す。その仕草、とってもかわいいでげす。
「拙者……ついに、例のものを手に入れたでげす」
「れいのもの? まさか! ほんとに!
すごーーい! え! ほんとに!
いくら! ねーいくらで手に入れたの!」
早川氏は目玉が飛び出るくらい見開いている。
「聞きたいでげすか?
聞きたいでげすか?」
「うん! 聞きたいでげす!
ねー、もったいぶらないで教えてよー!
私と吉田くんの仲じゃない!」
確かに早川氏とは大学で出会ってからの付き合いになるので、もう8年くらいになる。まさか自分がこんなかわいい子とこうして友達になるなんて、高校のころの自分が見たら歓喜で裸で歌いだすだろう。だが……。
「さすがに、ただでは教えられないでげす。
苦労したでげすからなぁ」
「わかった!
じゃー3分間、私のおっぱい自由にする権利をあげる!
それならいいでしょ!」
「にょはああああ!」
な、何を言い出すんだこの子!
「にょ、な、なにをいって!」
「えー、だって吉田くん。わたしと会うときは1時間に平均89回私の胸……みてるよね?」
「にゅおおおおお!」
確かに彼女と会うとつい目が胸にいってしまう。
だが仕方ないのだ。彼女はなぜか毎回、胸が強調される服ばかり着てくる。春だろうが、夏だろうが、秋だろうが、冬だろうが、胸元をあけ谷間を作ってくる。
そしてときには肩掛けバックを斜めに紐をかけ、『パイスラ』というものをやって更に胸を強調してくるときもある。
これで見ないほうがおかしい。
というか数えられてしまうほど、私はわかりやすく見ていたのか。
「平均89回も見てたってことは、いつか触りたいのかなぁって思って……。
……自分でいうのもなんだけど、結構柔らかくて気持ちいよ?」
「……び、ビッチでげす! そんなの、ビッチでげす!」
「えー! ひどい! こんなこというの吉田くんしかいないのに!」
「な、なんですと! ほ、ホントでげすか?」
「ホントだよー! 私達もう8年の付き合いになる親友でしょ!
親友以外でこんなこと言わないよ!」
「し、親友にもなんだかおかしいでげすが……」
だが、本当に触っていいのか。
大学でも、職場でも、彼女の事が好きな男はたくさんいた。てか、いる!
「さー、吉田くん!
私にその例の物の値段を教えて!
その代わり! 私のおっぱいを3分間、自由にしていいわ!」
早川氏は、上着の胸元を大きくあけ、豊満な胸を突き出す。
……でかい。
私は再び、ゴクリとツバを飲んだ。さっきの音より2段階くらい大きい着がする。
「だ、だめでげす!
これは、これはだめでげす!」
「えええええ!
女に恥をかかせるの!」
「は、早川氏!
この価値を本当に知っているのなら!
こんなものではないでげす!!」
そう、たとえどんな素晴らしいおっぱいであってソレを自由にできたとしても、この例の物とでは割りわない。せいぜい、例の物の袋から匂いを嗅ぐ程度だ。
そのことを早川氏が知らないわけがない。わからないわけがない。
長年連れ添った友として。
「……ふ、さすがだね。吉田くん。
さすが私の親友。
ごめんね、騙すつもりじゃなかったんだ。
吉田君が例の物の価値がわかる人かどうか、試したくてね。
もし、間違った価値の見方していたら、無理矢理でも私のものにしようとしてたから」
「……やはり、自分をためしていたでげすか」
「ふふ、ごめんね。
でもなぁ……やっぱり知りたいしなぁ、値段」
「こればかりは、早川氏でも無理でげす。
そうでげすな……これからの人生、拙者に差し出すっていうのであれば、値段どころか例の物を見て触って、抱きしめてもいいでげすがね。
なーんて冗談でげ……」
「え……ほんと?」
「え?」
「そ、そんな……ま、まさか吉田君からプロポーズを言ってくれるなんて……」
「え?」
「え、っとうん。そっか……うん。そうだよね、うん。
わ、わたしの人生……あなたにあげる。だから、あなたの側にいさせて……」
「え?」
「お願い……します」
「…………」
彼女が深々と頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私も深々と頭をさげた。



SS さぁ行こうか

20XX年、夏。

わたしは一人で作っていたロケットが、ついに完成した。




小学生のころ、図工の時間に作ったペットボトルロケットを、クラスメイト全員に笑われてから、はや80年。悔しくて、悔しくて。いつか見返してやろうと、毎日少しずつ、だが確実に前に進み、ようやくわたしは誰にも笑われない、宇宙船を完成した。

 

だが、わたしの周りにはもう、わたしを笑ったクラスメイトたちはいない。

それどころか、わたしのこのロケットを褒めるものはもう、この地球には存在しなかった。

 

「没頭していたら、いつのまにか一人になってたわい」

 

いい加減飯を食えと、ドアをガンガン鳴らす母の声がまるで昨日のように思い出される。

反発して、よく母と父と喧嘩したもんだ。

 

わたしはだれにも邪魔されない空間で作業がしたいと、その時すごく思った。

わたしは中学卒業と同時に、家を出て、生まれた街を離れた。

 

地下は快適だった。

まさに、わたしが理想といた場所だった。

わたしの理想の環境で、わたしがやりたい、大好きなことができる。

これほど幸せなことはない、と心のそこから思った。

 

クラスメイトに馬鹿にされた悔しさで始めたロケット作りも、この頃には大好きになっていた。

わたしはロケットを作るために生まれてきたのだと、強く実感した。

そう思うと、あのとき馬鹿にしたクラスメイトはわたしをこの道を示してくれたといえるだろう。

 

「名前は……なんじゃったかなぁ……」

 

明るく、元気で、目がぱっちり開いていて、きれいな黒髪で、あの子が何かやりたいって言えばみんな賛同して、ついていった。

ああ、そういえばわたしは、あの子についていかんかったな。

それが気に入らなかったのか、あの子はわたしのことをよくからかったり、ちょっかいを出してきた。

 

わたしがテストで悪い点を取ったら笑い、わたしが体育でヘマしたら笑い、わたしが歌を歌ったら笑い……ああ、わたしが何をしてもよく笑っていたなぁ。

 

 

「よく笑う、可憐で、可愛らしい子じゃった……」

 

彼女の容姿は鮮明に思い出される。

なのに、彼女の名前が思い出せん。

 

「だが、今さらじゃったな……。

ふふ、あの子の驚く顔がみたかったわい……。

すこし……いや、だいぶ遅くなってしまったのぉ」

 

わたしは作ったロケットやさしく撫でる。

中学卒業の日に、屋上に呼び出して宣言したことを思い出す。

 

”もう笑われないような、でっかいロケット、お前に見せる! そしてオレは――”

 

「わたしは、あのとき、何を言おうとしたのだろうなぁ……」

 

わたしはロケットのハッチを開け、中に乗り込む。

エンジンを起動し、発射の準備が整う。

 

「目的地は……そうじゃのう」

 

“じゃーそのロケットで、私を緑が沢山の自然溢れる星につれていきなさいよ”

 

わたしは、彼女が言った星にした。

あるかもわからない、彼女が思い描く理想の星。

 

「さて……発進じゃ、SORAKO号」

 

——わたしは、あの子の名前を思い出した。

 

 

 

SS とびだせ蟻たち

 




 

とびだせ蟻。
どこへでもとびだせる蟻。
地中でせっせと働いている蟻たち。
すべては女王様のため、生まれてくる子供のため。
働く蟻たちはせっせと働いている。
自分たちのことなんて二の次。だから色んな場所へ飛び出していける。
花の中、木の上、石の上、石の下。
ときには危険な敵の前にだって飛び出していける。
蜘蛛、カマキリ、蟻地獄、カエル……人間だってそうだ。
小さい蟻には敵がたくさん。
けど、蟻たちは決してひるまない。どんな敵であろうと、へっちゃら。
なぜならその敵がどんな凶悪で、どんなに勝てない敵であっても、その敵が女王にとって、素晴らしいものであるのなら、蟻たちは果敢に前に飛び出していける。一人で勝てなくても、みんなと協力すれば大丈夫。蟻たちは巧みなチームワークで、敵を倒す。そう簡単に、蟻たちのチームワークを崩せる奴らはいない。
そのチームワークで、数々の強敵を打ち破っている。
あの巨虫四天王を打ち倒すほどだ。
オオカマキリのデスサイズ、ジョロウグモのリリー、オオムカデの千鬼、そして……カブトムシの信玄。
世界の恐怖のどん底に陥れていた巨虫四天王を見事打ち破った蟻たち。
決して楽な戦いではなかった。多くの犠牲がでた。それでも蟻たち勇敢に四天王に立ち向かい、勝利し、愛しの女王へ四天王を献上した。
女王は闘った蟻たちを英雄として讃えたのだった。
これから先、どんな敵や苦難が待ち受けようと、蟻たちはきっと果敢に前に飛び出すだろう。
これからもずっと……。

 




 

いつもどおり

普段やらないことをするもんじゃない。
俺のじいさんの口癖だった。
本番で発揮することができる力は、練習でできたことの最大70%程度しか、本番では発揮されない。だから、嫌ってなるほど反復練習をするのだ。
俺はじいさんに言われたとおり、何度も練習、もとい勉強し今まですごくうまく言った。
高校受験、大学受験、そして公務員試験。どれも一発合格してきた。
よく一発で行けるねっとよく言われる。そんなときに言うのが、
「普段通りやるだけさ」
とちょっとキメ顔で言う。
普段通りにやれば、なんでもうまくいく。そのために何度も練習する。
だから今回受けたTOEICも満点近い点数が取れる自信があった。今回は満点行けるかもしれない。
俺はワクワク感にあふれて会場に入った。
まだ開始まで1時間。少し早く来てしまった。

「あれ? 長谷川くん?」

突然声がかかる。振り向くとそこには同じ職場で一番かわいい皆川麗華さんがいた。
俺はまさかの出会いに緊張が走った。

「み、皆川さん!」
「長谷川くんもTOEIC受けるんだ。私もなんだぁ」

彼女は少し照れくさそうに微笑んだ。
かわいい。すごくかわいい!

「それにしても早いね」
「い、いやその……」
「あ、わかった! 緊張して居ても立ってもいられなくて早く来ちゃったんでしょ?
ふふ、実は私も一緒。緊張しちゃうよねぇ」

かわいい。
理由は全然違うが、ここは彼女に合わせることにした。
そのほうが距離がぐっと縮まると思うからだ!

「そ、そうなんだよ! 緊張しちゃうよね」
「そんな長谷川くんに、とっておきがあるよ!
テストの名前をね、超絶頭がいい人の名前を書くんだよ!
そうしたらあたかもその人に乗り移ったかのように、自信と気合が入るんだって!」
「へー!」

そんなことをしなくても自信と気合は兼ね備えている。
だが、今回は憧れの皆川さんがいる。
もしかしたらこの後お茶とかしてさらなる距離が縮まるかもしれない。
LINEを交換しちゃって友達以上の関係になっちゃうかもしれない。
友達以上どころか家族になっちゃうかもしれない。
あれ、なんだか心臓がいつもより早い?

「それじゃ私、最後の復讐したいから行くね。
あ、この後ご飯でもいっしょに行かない? 長谷川くんともっと話たいなぁ……なんて」
「え、そ、それって……」
「じゃあとでね、ここでね」

なんだかその場から逃げるように彼女は行ってしまった。
まさか彼女のほうからお誘いがくるなんて思わなかった。
もっと話たいなんて行ってもらえるなんて思わなかった。
俺は自責に戻り、ずっと彼女のことを考えていた。どんなご飯にいこうか、どんな会話をしようか、今後のデートの話とかしちゃってもいいのだろうか。いろいろ考えいるうちにTOEIC開始の時刻になった。
俺は問題解こうとするが、全然問題が頭に入らない。英文をちょっと読んだあと、すぐ彼女のことを考えてしまう。そんなことをやっていたら、あっという間に開始から30分が経過していた。
ここままでは全問解けずという、史上最悪な結果になりかねない。
どうすればいいか考えていたら、再び彼女が脳裏に浮かび、言葉が思い浮かんだ。

「超絶頭のいい人の名前を書けばいいんだよ」

俺はわらにもすがる思いで、自分の名前をアインシュタインに変えた。
するとどうだろうか。
さっきまでとは嘘のように集中でき、自分でも驚くくらいのスピードで問題を解いていく。

(このペースなら30分の遅れも余裕で取り戻せる!)

そして俺は終了30分前にすべての問題に答えを記載できた。
もちろん見直しを含めてた。
俺はこの30分をこの後の彼女との食事について考えた。
するとあっという間に30分が過ぎてしまい、終了の合図がなった。
答案を回収していく。
俺は再度ざっと答案用紙眺めた。

「はう!?」

するとあることに気がついた。

「な、名前を治すの忘れてたぁ!」

俺は急いで治そうと消しゴムを手に取ったが、それと同時に試験管が答案を回収してしまった。

「ちょ! まっ……」

試験管はちらっとこちらをみたが、特に止まる様子はなくさっさと行ってしまった。

「や、やっちまった……」

終了後、彼女との待ち合わせ予定の場所に向かうとそこには彼女と見知らぬ男性がいた。

「あ、は、長谷川くん。そのごめんね、ちょっと別件の用事が入っちゃって……そのご飯はまた今度で。
それじゃね!」

そう行ってすぐに去っていった。
普段やらないことをするな。
じいさんの言いつけを守らなかった自分への、罰だったのかもしれない。